生徒が解法を考える機会(解に至る工程を自力で辿る)

講義座学系の教科で「授業を通じて学力の向上や自分の進歩を実感できるか(学習効果)」に対し大きな寄与度を持つ項目の一つに「習ったことを使って課題解決に取り組む機会(活用機会)」があります。

しかしながら、習ったことを使って課題解決に取り組む機会を整えている度合いは、個々の授業で「かなりまちまち」というのが現実の様子。教科による違い(有利・不利)もありますが、データを見る限り、先生方の「学ばせ方」で生じている違いの方が大きいことが窺えます。

記事のタイトルは「解法を考える」ですが、「具体的な問いや課題を前にして、その解決に必要な情報を集める/不明を解消していく」という局面でも、「生徒が自力で取り組む部分」を増やしていくことは、教科固有の知識・技能の獲得や習熟に寄与すると同時に、その中で涵養されるべき能力・資質の獲得をより確かなものしていくはずです。

2018/08/29 公開の記事をアップデートしました。

❏ 同じ教科書を使っても学ばせ方には大きな違い

下図は、教科ごとの【活用機会】の集計値分布です。教科書が問題の配列で構成される数学と、知識量が相対的に多い社会/歴公とでは、箱の位置が大きく違いますが、教科内でも小さからぬ差が見て取れます。

教科ごとの活用機会の集計値分布.png
教科の特性上、有利な数学でも肯定的な回答が9割となる75ポイントを下回る授業が散見される一方、社会/歴公でも箱の上端は80ポイントをこえています。

より詳細にデータを解析してみると、同じ教科書を使用している授業の間でも活用機会の集計値には、相当のばらつきがあり、学習内容が同じでも「学ばせ方」が授業者によって異なる様子が見て取れます。


❏ すべての問題を先生が丁寧に説明してしまっては…

例えば、数学の授業で、例題から始めて、類題、練習問題と進んでいくときに、先生がすべてを丁寧に教えきってしまうことが続くと、生徒は自分で解法を考える機会がなく、その力を養うチャンスが持てません。

例題を通して学んだことを、生徒が自分の手と頭を使って類題に適用してみる場合と、そうした場面なく、類題の解き方も先生が先回りして説明してしまう場合とでは「生徒がやっていること」は全く違います。

類題、練習問題、発展問題、章末問題と進む中で、生徒が自力で解法を考える要素が徐々に増えていく設計になっているか、点検が必要です。獲得した知識・理解を生きて働かせる方法をきちんと学ばせましょう。

どうアプローチするかを隣同士で説明し合ったり、小グループで話し合ってみたりさせて、解法を考えた結果を言語化させれば、その様子を観察することで生徒の思考がどこまで及んでいるかも把握ができます。

生徒同士の教え合い・学び合いは、別稿で書いた通り、苦手意識を抑制する効果が期待できますし、新課程への移行で増えてくる「解き方や証明の仕方を相手に説明することを求める問題」への対応力も高まるなど一石二鳥。授業のコスパもトータルでは向上するはずです。


❏ 説明を繰り返すまえにやるべきこと

そこまでに学ばせたことへの生徒の理解が不十分なときも、教え直しという手を安易に取らないようにしましょう。

与えられた解法がわからないときに、理解できるところまで思考や対話を生徒自身に重ねさせることもまた、形を変えた「解法を考えること」の一つだと思います。

そもそも、その日に授業で導入した概念や、土台となる既習内容に生徒が理解できていないことがあったとき、先生が同じような説明をいくどやり直してもうまく行くとは限りません。

教科の専門家である先生の説明より、教え合い・学び合いの中で得られる「同級生が一度咀嚼して表現し直した言葉」の方が分かりやすいこともあります。ベスト・ティーチャーは先生方であるとは限りません。

また、生徒には問題集を持たせており、そこには解説もあるはず。問題集の中に似た問題を探させ、その解説を読ませることで「文字を介したテクストとの対話」を促し、不明を解消させていけば、徐々に「学習者としての自立」も実現に近づくのではないでしょうか。

一度教えたことなら、教科書やノートを読み返すだけで、授業内に生じた不明の大半は解消できるはず。一人でもたつくようなら、ペアなどで読み合わせをさせてみるのも手でしょう。これもまた、既に学んだことを使って眼前の課題/問いに挑んだ体験の一つになると思います。

わからないことがあったときに、「先生に教えてもらう」こと以外に解決策を持たせることが大切ですし、そうした手札を増やしていくことには、教科・科目に対する自己効力感を高めていく効果も期待できます。

 ■ 教え込むより、調べさせて気づかせる
 ■ 自力で学ぶ力を育むのに重要な、最初に選ぶ”対話の相手”



授業を通して生徒が学び、身につけていくのは、各単元の学習内容だけではありません。言語・数量・情報の各スキルからなる「基礎力」や、メタ認知や適応型学習力も含んだ「思考力」といった能力・資質も獲得しているはずです。

学んで理解したこと/知識として獲得したことをもとに考えて、問いに答えを導いたり、課題を解決したりする場をしっかりと設ける必要があるのは言うまでもありません。

せっかく行った授業評価アンケートです。重要なこの項目で高い評価を得た授業での実践を、相互参観や実践報告を通して知り、それを自分の授業を構成するパーツとして上手に取り込んでいきましょう。

それと同時に、基礎力や思考力そのものを発揮させる場として「教科書や資料をきちんと読んで自力で理解する」「自分の学びやその成果を振り返り、より良いパフォーマンスのために次は何をすべきかを考える」ことなども求めていかないと、学んで身につけたこと(能力・資質)を活用する中でさらにブラッシュアップを図る機会を生徒は持てません。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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