イノベーションをもたらす認知の網と偶然との出会い
新しく見聞きしたことを理解するというのは、もともと持っている知識と、新しく入ってきた情報の接点が作られることを意味します。新たな情報が放り込まれたところの周辺に、既に蓄えられていた知識が待ち受けていないと、情報は接点を得ることなく素通りしていきます。
短期記憶は、後から入ってきた情報に次々と上書きされてしまいますので、「認知の網」が張られていない領域では、たとえどんなに重要な情報でも入ってきた/接触したことすら認識されません。
❏ ブレークスルーを起こすのは、蓄えられた知識と発想
ニュートンはリンゴが落ちるのを見て万有引力を発見したというのは、真偽不明の話ですが、様々な現象を自ら観察し、勉強を通じて他者が作り上げた知を採り込み、じっくりと思索に取り組んでいたという土壌がなければ、そうした大発見は起き得ないのではないでしょうか。
蓄えていた知識や、様々な課題の解決に取り組む中で学んだ問題解決のプロセスが豊富なほど、何かの拍子に飛び込んできた情報により大きな意味を持たせることができます。
あるテーマや分野について四六時中考えていれば、その領域には知識と発想が蓄積されていきます。
そこに何かの偶然で最後のピースとなる情報が飛び込んできたときに、ブレークスルーが生まれるのだと思います。
ブレークスルーの後には、アイデアを具体化する苦労や、仮説を検証する山のような努力が待っているでしょうが、土台になるのは、偶然のひらめきを捉えきれる認知の網を張っておくことです。
❏ 最後のピースを手に入れるのに必要な偶然との出会い
蓄えてきた知識や物事を考えるときの手法も、最後のピースとの出会いがなければ、何かのひらめきをもたらすことはありません。
そのピースを手に入れるには、偶然による出会いが必要であり、様々な人との交流や、一見すると益のなさそうな体験などがその出会いの場になるのではないでしょうか。
私自身、仕事をする中、それまで経験のないタイプのデータを預かったり、特段の目的を持たずに方々の教室を覗きに行ったりする中で、最後のピースを手に入れることが少なくありません。
そうした場面で、それまでも知っていたことが別の意味を持つことに気づく(=意味の拡張)こともあれば、個々バラバラであった理解が頭の中で一つの形を作り出す(=統合される)瞬間を経験できます。
❏ 知識と思考経験が作る理解力が試される高大接続改革
高大接続改革や新学習指導要領では、生徒は答えが一つに定まらない問題に挑む機会が増えるはずです。
所与の情報の中にどんな課題を見出すか、どんな問いを立てて切り込めるかは、どれだけの知識を蓄えていたか、様々な課題の解決に取り組んだ経験を通じてどれだけの発想を得ていたかに左右されます。
題意の周辺に多くの知識があれば、それだけ深く課題を理解し、どこに軸足を置き、どう問題に切り込むかを多くの選択から選ぶことができるはずです。
冒頭に書いた通り、ものごとの理解は、新たな情報が既得の知識と接点を持つことで形成されますので、認知の網が穴だらけでは、テクストの中にどんな課題が含まれているのかも把握できない可能性があります。
❏ 卒業後にも正しい選択を重ねられるように
同じ問題が、受験を終えた後もついて回るのは言うまでもありません。
ことわざにある「知らぬが仏」(Ignorance is bliss.)は、余計な悩みに煩わされないためには有効な処世術かもしれませんが、変化が加速する現代では無知は決して至福ではないはずです。
現実に身近に迫る危機や周囲に存在する課題に気づかないでいては、リスクを膨らませるばかりです。生徒にはことあるごとに、
準備(1と2)がしっかり整ってさえいれば、ひょんなこと(3)をきっかけに、自分が社会の中で果たすべき役割や自分事としての課題を見つけることもあるのではないでしょうか。
最後のピースが見つかるまで、周辺の知識がどう役立つかわからないことを、生徒にはよく知ってもらいたいと思います。
❏ 課題解決は知識を使った情報の分解と再構成
課題解決というタスクもまた、課題が与える情報を既得の知識という道具を使って分解し、解が求める形に再構成することにほかなりません。
世界を変えるような大発明も、様々な(時に小さな)課題解決のプロセスを経て実現しています。それまで誰も気づかなかった切り口で解決を図ったから「発明」と言われるだけではないでしょうか。
繰り返しになりますが、同じものを見てもそこからどれだけの知見を引き出せるかは、周辺の知識をどれだけ備えていたかどうかです。
地域が抱える問題や、身の回りの課題の解決を図るときにも、状況を正しく理解し、適切な切り口を見つけることが同じように求められます。
イノベーションをリードできる人を育てることは、教育に向けられた大きな期待ですが、イメージしにくい「イノベーション人材の育成」というお題目に振り回されることなく、まずは、日々の指導の中でできることをきちんと行うべきかもしれません。
❏ 認知の網を広く偏りなく張ることを目指して
このブログでは「認知の網」という言葉を幾度か使ってきました。
社会が抱える課題の多くは、様々な分野を専門とする人々による協働で解決されるものであり、分散知(集合知)をうまく活用する必要がありますが、その土台になるのは広く偏りなく張られた認知の網です。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
短期記憶は、後から入ってきた情報に次々と上書きされてしまいますので、「認知の網」が張られていない領域では、たとえどんなに重要な情報でも入ってきた/接触したことすら認識されません。
❏ ブレークスルーを起こすのは、蓄えられた知識と発想
ニュートンはリンゴが落ちるのを見て万有引力を発見したというのは、真偽不明の話ですが、様々な現象を自ら観察し、勉強を通じて他者が作り上げた知を採り込み、じっくりと思索に取り組んでいたという土壌がなければ、そうした大発見は起き得ないのではないでしょうか。
蓄えていた知識や、様々な課題の解決に取り組む中で学んだ問題解決のプロセスが豊富なほど、何かの拍子に飛び込んできた情報により大きな意味を持たせることができます。
あるテーマや分野について四六時中考えていれば、その領域には知識と発想が蓄積されていきます。
そこに何かの偶然で最後のピースとなる情報が飛び込んできたときに、ブレークスルーが生まれるのだと思います。
ブレークスルーの後には、アイデアを具体化する苦労や、仮説を検証する山のような努力が待っているでしょうが、土台になるのは、偶然のひらめきを捉えきれる認知の網を張っておくことです。
❏ 最後のピースを手に入れるのに必要な偶然との出会い
蓄えてきた知識や物事を考えるときの手法も、最後のピースとの出会いがなければ、何かのひらめきをもたらすことはありません。
そのピースを手に入れるには、偶然による出会いが必要であり、様々な人との交流や、一見すると益のなさそうな体験などがその出会いの場になるのではないでしょうか。
私自身、仕事をする中、それまで経験のないタイプのデータを預かったり、特段の目的を持たずに方々の教室を覗きに行ったりする中で、最後のピースを手に入れることが少なくありません。
そうした場面で、それまでも知っていたことが別の意味を持つことに気づく(=意味の拡張)こともあれば、個々バラバラであった理解が頭の中で一つの形を作り出す(=統合される)瞬間を経験できます。
❏ 知識と思考経験が作る理解力が試される高大接続改革
高大接続改革や新学習指導要領では、生徒は答えが一つに定まらない問題に挑む機会が増えるはずです。
所与の情報の中にどんな課題を見出すか、どんな問いを立てて切り込めるかは、どれだけの知識を蓄えていたか、様々な課題の解決に取り組んだ経験を通じてどれだけの発想を得ていたかに左右されます。
題意の周辺に多くの知識があれば、それだけ深く課題を理解し、どこに軸足を置き、どう問題に切り込むかを多くの選択から選ぶことができるはずです。
冒頭に書いた通り、ものごとの理解は、新たな情報が既得の知識と接点を持つことで形成されますので、認知の網が穴だらけでは、テクストの中にどんな課題が含まれているのかも把握できない可能性があります。
❏ 卒業後にも正しい選択を重ねられるように
同じ問題が、受験を終えた後もついて回るのは言うまでもありません。
ことわざにある「知らぬが仏」(Ignorance is bliss.)は、余計な悩みに煩わされないためには有効な処世術かもしれませんが、変化が加速する現代では無知は決して至福ではないはずです。
現実に身近に迫る危機や周囲に存在する課題に気づかないでいては、リスクを膨らませるばかりです。生徒にはことあるごとに、
- 授業において、好き嫌いや必要性で科目を分けず、広く学ぶこと
- 探究活動などで課題にじっくり取り組み、思索の経験をつむこと
- どんなことにも積極的に挑戦し、偶然との出会いを楽しむこと
準備(1と2)がしっかり整ってさえいれば、ひょんなこと(3)をきっかけに、自分が社会の中で果たすべき役割や自分事としての課題を見つけることもあるのではないでしょうか。
最後のピースが見つかるまで、周辺の知識がどう役立つかわからないことを、生徒にはよく知ってもらいたいと思います。
❏ 課題解決は知識を使った情報の分解と再構成
課題解決というタスクもまた、課題が与える情報を既得の知識という道具を使って分解し、解が求める形に再構成することにほかなりません。
世界を変えるような大発明も、様々な(時に小さな)課題解決のプロセスを経て実現しています。それまで誰も気づかなかった切り口で解決を図ったから「発明」と言われるだけではないでしょうか。
繰り返しになりますが、同じものを見てもそこからどれだけの知見を引き出せるかは、周辺の知識をどれだけ備えていたかどうかです。
地域が抱える問題や、身の回りの課題の解決を図るときにも、状況を正しく理解し、適切な切り口を見つけることが同じように求められます。
イノベーションをリードできる人を育てることは、教育に向けられた大きな期待ですが、イメージしにくい「イノベーション人材の育成」というお題目に振り回されることなく、まずは、日々の指導の中でできることをきちんと行うべきかもしれません。
❏ 認知の網を広く偏りなく張ることを目指して
このブログでは「認知の網」という言葉を幾度か使ってきました。
- 自ら学び続けられる生徒を育てる
- 5教科7科目に挑ませることの意味
- 認知の網の広げ方~5教科7科目をきちんと学ぶ
- 教科固有の知識・技能を学ぶ中で
- 知識をどこまで拡張するかは個々のニーズに合わせて
- 学びの広さと深さ
- 記憶に格納する知識、外部参照する知識
社会が抱える課題の多くは、様々な分野を専門とする人々による協働で解決されるものであり、分散知(集合知)をうまく活用する必要がありますが、その土台になるのは広く偏りなく張られた認知の網です。