知識の獲得は個人の活動を通じて

授業デザインを考えるとき、生徒が個人の活動でも取り組めるものと、集団の中での協働でしか学ばせられないものとを区別しておかないと、扱うべき学習内容を限られた授業時間と指導回数の中に納めきれなくなってしまいそうです。

H28.05.10に発せられた"教育の強靭(じん)化に向けて"と題する文科相メッセージにも明記されている通り、学習内容/知識の量は削減されない中、対話を通した深い学びを実現することが求められています。

同じ大きさの枠の中により多くのものを詰め込むのは、不可能とは言いませんが、かなり困難なはずです。

授業内に散らばる小さな無駄を省く(=隙間を詰める)ことに加えて、50分間の中に配列するものと、授業外の自学に持ち出すものとをきちんと分けて考えられるかどうかが、指導の成否を分けそうです。

ちなみに「隙間を詰める」には、"ICTの利用"や学習行動のルーチン確立による"指示の節約"が欠かせません。


❏ 教室の中で/集団でしかできないこと

貴重な授業時間は、教室の中でしかできないことや集団の中でしかできないことに集中して配分し、それ以外は生徒に自学自習で取り組ませるというのが基本的な方向性になるはずです。

集団でしかできないことは何かと言えば、
  • 生徒同士の話し合いで、発想の拡充を図る
  • 多様な意見や考えに触れて判断の軸を作る
  • 先生との問答を通じて思考の深化を図る
  • 他者に伝えることを前提に表現力を鍛える
  • 他者の発言を理解し、即興で自分の考えをまとめる
といった部分が主なものになるはずです。いずれも思考力・判断力・表現力といった学力要素に関わるものであり、対話を土台に成立します。

もちろん、単調な練習など、個人ではダレてしまいがちな活動も、周りも頑張っている環境下や競い合う中で取り組んだ方がモチベーションの向上が図れるかもしれませんが…。


❏ 個人の活動の中で取り組ませるべきこと

一方、個人でもできること/取り組ませるべきことには、などが挙げられると思います。

教科書に書かれていることを自力で読んで理解することは、高大接続改革以降の大学入試でも頻出すると思われる「学習型問題」への対応力を養う上でも欠かせません。

自習用の動画も簡単に利用できる環境が整ってきています。教室で貴重な授業時間を使って先生が丁寧に説明して理解させる必要は既に薄れてきているのではないでしょうか。


❏ 新テストの試行問題が示唆する「高校でどう学ぶか」

以下は、過日行われた新テストの試行問題(政治経済 第3問 問6)から一部を抜粋したものです。

画像

空所Yに続く部分は、仮に読み飛ばしても設問に答える上で何ら問題はありません。言うならば、無駄な部分です。

それでも読解量が過重であるとの批判にも拘わらず、この部分を敢えて加えているのは、「高校においてどう学ぶか」をイメージとして伝えようという意図によるものではないでしょうか。


❏ 個々に学んだことを持ち寄って、対話により学びを深める

上の引用部分が描いているのは、自学で調べてきたことを発表し、それを踏まえて賛否の分かれるところで議論を深めていくという場面であり、「先生」はどちらが正解かという結論を示していません。

先生が「裁定」を下して理由付けをした瞬間に、生徒はそれを「覚えるべき正解」と誤認してしまうかもしれませんよね。生徒の思考と議論はそこで止まりさらに深めていくことができなくなります。

高大接続改革やその先に本丸として待つ新学習指導要領では、「正解が一つに定まらない問題」を扱うことも多くなります。

如上の試行問題は、そのために教室で教材をどう扱うか、どのような対話を作りだすべきかの一例を示しているようにも感じましたが、いかがでしょうか。



教室は、先生が教える場から生徒が学ぶ場に切り替わっていきますが、それは教室が自習室になるということではありません。

個々に学んだことを持ち寄って、対話により学びを深める場として授業を設計し、そうした場として教室をプロデュースするアイデアとスキルが教員には求められるのではないでしょうか。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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