隠されているものは覗きたくなる

以前、"所さんの目がテン"というテレビ番組で「のり弁の心理効果」を特集していました。このブログでのり弁について考察する気は毛頭ありませんが、「のり弁には好奇心をくすぐる宝探しのようなわくわく感がある」という点には興味を覚えました。「ご飯を隠すように海苔がのせられていることで、見えない中身を知りたいという意識が働く」というメカニズムは、学ばせ方のデザインにも応用ができそうです。

2019/02/20 公開の記事をアップデートしました。

❏ 海苔でご飯を隠すだけで中身に関心がわく

本題に入る前に、番組の内容を紹介しておくとこんな感じです。

番組で行った実験では、白いご飯におかずが乗った普通のお弁当と、海苔を張った上におかずを乗せたお弁当を比べると、後者を選ぶ被験者が急増するという結果が得られました。

画像
被験者30人を10人ずつのグループに分けて3回の実験を行った結果ですが、確かに海苔をのせたときの選択率は、ぐんと上がっています。

実験を監修された東北大学大学院文学研究科心理学研究室の坂井信之教授は「大前提として過去に食べた時に美味しかったという記憶がある」としながら、

ご飯を隠すように海苔がのせられていることで、見えない中身を知りたいという意識が働くことも要因

と分析していました。先生曰く、「スクラッチを削って中を知りたい」という心理と同じだそうです。

海苔がのせられたぶん、ちょっとお得感があるだけじゃないの?と疑いながら番組の続きを観ていたのですが、どうもそうではなさそうです。

番組では、この仮説を検証するために、絵画を用意し、幕で絵を隠した場合と隠さない場合とで立ち止まって鑑賞を続ける時間を測定する実験を行っていました。

結果は、隠すものがないときは平均15秒に過ぎない鑑賞時間が、幕で一部を隠すだけで38秒にまで伸びていました。

前者の方が後者の場合より長く鑑賞者の関心を引いたと考えないと、この実験結果を説明できません。


❏ のり弁の心理学を教室で応用できないか?

ちょっと隠しただけで、これだけ興味・関心の継続時間が伸びるというのは驚きですが、この心理効果は教室でも応用が利くかもしれません。

わからないもの、知らないものがそこにある、ということを認識させることで、生徒の興味を喚起することができ、その興味は答えが明らかになるまで継続すると考えれば、

  1. 問いを投げかけたり、空欄を残した板書や資料を示したりすることで、不明の所在を認識させる

  2. 生徒が答えを見つけようと考えている(=興味が持続している)間は、先回りして正解を示さないようにする

といったことに留意することで、長く思考を継続させ、より深い学びが実現するかもしれません。

以前の記事でご紹介した以下の方法は、のり弁を前にしたときと同じ心理を利用したものと考えることができるかもしれません。

TIPS! 空所を残した板書
空所を残したまま板書を行うことで、生徒の問題意識を刺激するという手法があります。授業の導入時や、新たな内容に進むときに用いれば、学習を通じて目標とするところを示す優れた機能を発揮してくれます。本時の学びを通じて答えられる(=言語化できる)ようになって欲しい問いの"正解"となる文章をベースに、ポイントとなる部分を空けておくだけです。

結論を出さずに終える授業
授業の終わりは「今日の授業の内容をまとめて」というのが定番スタイルかもしれませんが、ちょっと発想を変えて、問いに答えを出さずに次の授業につなぐというやり方はいかがでしょうか。結論を与えてしまうことで学びや思考を締めくくらず、問いをオープンにしたままま授業を終えることが、生徒に考え続けさせることにつながることだってあります。

先生が最初から明快な説明を重ねて理解させるだけと、問いを与えて生徒に答えを探させたときの違いは、最初から絵画の全体が見えているか隠されているかの違いに通底するものがありそうです。

解くべき問いの所在を見出さぬまま、概念的なことや背景知識だけ先に与えられても、「中身を覗いてみたい/先を知りたい」という欲求は生まれないのではないでしょうか。


❏ 解くべき問いが与えられてこそ思考は働き始める

拙稿「学力の三要素とは~もう一度考えてみました」でも申し上げた通り、「思考力」は、解決すべき課題があってはじめて発動し、協働の場での「気づきの交換」で拡張が図られます。

NHKで放送されている「チコちゃんに叱られる」という番組がありますが、しょうもない質問でも、改めて問われてしまうと知りたいという気持ちが沸き上がり、その後の説明にもつい聞き入ってしまいますよね。

同じネタでも、淡々と説明が重ねられるだけでは、耳を傾ける人は半減するのではないでしょうか。

しっかりと問い掛けを行い、わかっていないという事実をきちんと認識させることが、学びの入り口を作ると言えそうです。

導入フェイズでは、概念的な説明をしたり、背景知識を与えたりするより、「知らない・わからない」という事実を突きつける問いを投げかけることを優先すべきなのは、拙稿「学習目標は解くべき課題で示す」でお伝えした通りです。

考えようとしない生徒がいたら、ときには「ボーっと生きてんじゃねえよ!」と突っ込んでも良いかもしれません。但し、突っ込むときは笑顔をお忘れなく。真顔だと「暴言」になっちゃいますからご注意を。



中身をどう隠すかは、突き詰めれば「どんな問いを立てるか」ということです。どんな問いを立てるかで授業デザインは決まるものであり、どんな問いを立てるかで、その日の学びで身につけさせることができるものがガラッと変わります。

新テストの試行問題などをモデルに、問いのあり方を研究していく機会を持ちたいところですが、どうせならば、先生方の協働の場を作りましょう。ワイワイやりながら、発想の手札の交換を重ねれば、短時間でより大きな成果が得られると思います。

■関連記事:
  1. 解くべき課題で「何のために学んでいるか」を伝える
  2. 学ぶことへの自分の理由(後編)
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  4. 学習目標の示し方(その2)~効果的な目標提示の方法


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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