学力観の変化は良問と悪問の分け方を変える

パフォーマンスモデルの学力観の下では、何を学んできたかを試すことを目的に、正解が一つに決まる問題を課し、受験者が出した答えの正誤で学力を測っていたため、正解が特定できない問題は「出題ミス」として扱われました。しかしながら、学力観がコンピテンシーモデルに切り替わる中で、事情は大きく変わってきそうです。


❏ 所与の情報に基づきどこまで考察できたか

所与の情報に基づいてどこまで考察を深められるかを試すことに主眼が移り、導き出した答えを「仮説」としてそれを検証するのにどんな情報に当たる(=何を調べる)べきかが問われる場面も増えるはずです。

従来なら出題ミスと扱われた正解がひとつに決まらない問題が登場したのは、学力観の変化という背景の中で理解すべきことだと思います。

新テストの試行問題でも、「どんな問いを立てるかで授業デザインは決まる」で申し上げた通り、「導いた結論が何か」ではなく「どうやってその結論を導くか」を尋ねることに軸足を移してきた様子が窺えます。

効率的な解法を知ってさえいれば、スピーディーに正解にたどり着けるような問題は、新しい学力観の下では、悪問とはならないまでも良問との評価を得られなくなるかもしれません。

記憶の想起を促す問題ではなく、所与の条件下で考え得る可能性の中から、正解を絞り込んでいく方法を考えさせる問題にもスポットライトが当たっていくものと思われます。


❏ 記述・論述問題では採点基準こそが命脈

正解がひとつに特定できない以上、予め用意しておいた模範解答との異同の度合いで点数をつけることはできません。

テスト問題の性能は、学力(知識・技能、思考力・判断力・表現力)をどれだけ正確に点数に変換できるかで評価されますので、
  • 問題文をどれだけ正確に理解しているか
  • 問いが求める情報を正しくピックアップ出来ているか
  • 理解したことをもとにどこまで考察を深められているか
といった観点で、それぞれの程度に応じた点数を付与する規準を用意しなければなりません。

問題だけを見ても、良問かどうかは判定がつかないということです。

例えば、以下の問題は今年の早稲田大学(法学部)の政治・経済の問題ですが、正解をひとつに絞り込むだけの情報は与えられていません。

散布図から読み取れる事実(ファクト)と、座標面での各国の位置関係を説明すべく立てた「仮説」とをきちんと区別した答えが期待されていると思いますが、先生方はこの問題にどんな採点基準を用意しますか?

画像

出題者が用意した採点基準によっては、良問にも悪問にもなり得る一問ですが、教室で教材として使うなら、きちんとした採点基準を用意できるかどうかで「教材としての良否」も決まります。

 ■ 答案を正しく評価できているか


❏ 誤肢の作り方にも新たな工夫が求められる

記述・論述問題だけでなく、選択式の問題においても、良問を作る条件は以前とは変わってくるはずです。

設問が試そうとしている知識や理解の有無を試すのであれば、誤肢(誤りの選択肢)を作るのも比較的単純でした。

同一ジャンルの別の用語を並べたり、正解のセンテンスを作っておいてから一部を誤りに書き換えるぐらいで十分なことが多かったはずです。

しかしながら、新しい学力観(コンピテンシーモデル)の下では、誤肢作りに違ったアプローチが必要になります。
  • 所与の情報から導き出せる範囲を逸脱して前提を設定した場合
  • 学習型問題において、問題文を十分に理解できていない場合
などに想定される誤った答えを誤肢として用意する必要があります。

前提から結論を導くまでの論理に飛躍や欠落が含まれているものも誤肢に用意すれば、誤りである理由を説明させることで、思考を積み上げるときの注意点なども学ばせることができそうです。


❏ 出題研究の成果を授業に活かすときに

高大接続改革を目前に、意欲的な大学では新しい学力観に沿った出題が登場し始めています。

出題研究を通して"問い方"を学ぶことは、今後の授業改善の方向を考えるときに欠かせないものですが、従来の発想だけで良問/悪問の区別をすることはできなくなりそうです。

所与の情報から何がわかり、どこから先が不明かを峻別した上で、それをどうやって解明するか考える力が問われるようになると、従来であれば「不完全な問題」として排除されていた問題が良問に再評価されることも少なくないと思われます。

入試問題を授業の教材に使うときには、単に目新しい問題を引っ張ってくるだけでなく、どうやって生徒のアウトプットを正しく評価する(=数値に置き換える)か、採点基準も併せて熟慮が求められます。

正解が一つに決まらない問題の採点には、採点ルーブリックを導入する必要がありますが、その研究を遅滞なく進めていくことも、今後の重要な課題であることに異論の余地はないはずです。

校内外での研修においても、教え方・学ばせ方という指導方法と同じくらいの意識を向けて、問い方や採点の方法を考えていきましょう。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一


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