学力観の変化は良問と悪問の分け方を変える

良問とは何かという問いには様々な答えがあろうかと思いますが、良問であるために外せない要件のひとつが「求められる学力を正しく点数に換算できること」であることに異論はないと思います。

パフォーマンスモデルからコンピテンシーモデルに学力観の更新が進む中、従来なら「良問」とされていた問題も、今後は「測定すべき学力が点数に換算できない」ことを理由に「悪問」に分類されかねません。

生徒は定期考査の出題内容に合わせて勉強のスタイルを作ります。定期考査の問題が、従来のまま、新しい学力観のもとで「良問」との評価を得がたいもので構成されていては、生徒の学びを歪めてしまうリスクがあるということです。

また、日々の授業においても、どんな問いを立てるかで授業デザインは決まる以上、どんな問いや課題を「ターゲット」にするかは重要です。

2019/05/07 公開の記事をアップデートしました。

❏ 獲得した知識の量や定着度を測ることに偏らない

コンピテンシーモデルの学力観が打ち出される以前は、学ばせたことを生徒がどれだけ記憶し、正確かつ迅速に再現できるかを測るのがテストに期待される役割の大きな部分を占めていました。

様々な場面で頻繁に参照される知識(頻出語句や基礎知識と呼ばれていたもの)を所持しているかを偏りなく出題するのが「出題の作法」のひとつでした。ちなみに「頻出問題の標準的な解法」も「知識」のひとつで、生徒には覚えることを求め、テストでもきっちり出したはずです。

こうした問題自体が「悪問」というわけではありませんが、出題の中で過度な割合を占めていては、新しい学力観への移行で測定の必要が生じたことを問うのに充てるべき解答時間や配点を圧迫し、結果的にテストの「求められる学力を正しく点数に換算する性能」を損ねます。


❏ 知識理解に生きて働く場を与えれば、有無もわかる

知識の有無を直接的に試す問題(語句などを解答欄に記入させる「求答式の問題」などがこれに当たります)は、わざわざ出題しなくてもそれらを「生きて働かせる」ことを求める問題を課せば、該当知識を所持しているかどうかも、間接的に測定できているはずです。

例えば、英語のテストでは、語句や文法の独立問題を出さずとも、それらを含む長文を読ませ、その理解を試す問題に正解できたなら、そこで用いられている語句・文法の知識を生徒は所持している(あるいは所持していない場合に「類推」などの手段で補完できた)ことになります。

知識量や定着度を測ることに教える側の意識が傾くと、授業のやり方や授業内外の課題の選択でも、その方向に力が入りすぎて、知識・理解を生きて働かせる場の創出・確保が疎かになるのではないでしょうか。

基礎力(言語・数量・情報の各スキル)やそれらを用いた思考力(課題発見力・解決力、批判的・論理的思考力)などを測ることに出題の狙いを切り替えていくことは、新課程への対応における「肝」です。

意欲的な大学などの出題に見られる新タイプの問題を「教材」に問いの在り方を学び、その成果を定期考査の出題や、日々の授業におけるターゲットの設定に活かしていきたいところです。


❏ 授業にも取り入れたい新タイプの問題

大学入学共通テストへの移行などのいわゆる「高大接続改革」で見かけることが多くなった新タイプの問題には以下のようなものがあります。


こうした問題は、日々の授業のターゲットとしても積極的に取り込んでいきたいものです。生徒が取り組む機会を作らなければ、対応する力は養えませんが、その機会は授業にしかありません。

定期考査に出題するには、少々ハードルも高いですが、授業で扱うことで、調べ学習や、話し合いなどの対話で拡充した知識と思考/気づきを携えて、授業後に自分の答えをしっかりと仕上げさせれば、その結果を考査答案と並ぶ評価の対象にするのは十分に可能だと思います。

結論に至る過程を考えさせる問題は、探究的な学びを日々の授業や総合的な探究の時間の中でしっかり体験させ、そこで求められる取り組み方などを獲得させてほしいとの意図によるもの。大学進学後の「学修」の土台ですので、しっかりと固めてあげる必要があります。

正解がひとつに決まらない問題で試せるのは、正解を選び出すまでに踏むべき工程をきちんと踏んでいるかです。必要な情報をきちんと集めることに加え、信ぴょう性を評価したり、矛盾に対処したりするのに論理的・批判的思考を正しく働かせる練習を積む、貴重な機会になります。

これら以外にも、「選択した条件によって選ぶべき正解が違ってくる問題」も見かけるようになりました。出題の狙いは、論理的に思考を積み上げられているかを試すことにあるのは明らかです。


❏ 記述・論述問題では採点基準こそが命脈

正解がひとつに特定できない問題に限らず、一定の論述を課す問題(思考を積み上げ、その結果を他者の理解を得るように表現する力を試すことが狙い)でも、様々な答えが「正解」になりうるため、予め用意しておいた模範解答との異同の度合いで点数をつけることはできません。

テスト問題の性能は、学力(知識・技能、思考力・判断力・表現力)をどれだけ正確に点数に変換できるかで評価されますので、
  • 問題文をどれだけ正確に理解しているか
  • 問いが求める情報を正しくピックアップ出来ているか
  • 理解したことをもとにどこまで考察を深められているか
といった観点で、それぞれの程度に応じた点数を付与する規準を用意しなければなりません。

問題だけを見ても、良問かどうかは判定がつかず、採点基準が合理的かどうかによっては、設定は「良問」でもテストとしては「問題あり」ということも十分に起こり得ます。

例えば、以下の問題は2019年度の早稲田大学(法)の政治・経済の問題ですが、正解をひとつに絞り込むだけの情報は与えられていません。

散布図から読み取れる事実(ファクト)と、座標面での各国の位置関係を説明すべく立てた「仮説」とをきちんと区別した答えが期待されていると思いますが、先生方はこの問題にどんな採点基準を用意しますか?

早稲田法2019出題例.png
採点基準によっては、良問にも悪問にもなり得る一問です。教室で教材として使うなら、きちんとした採点基準(=与点に対して合理的な説明ができ、生徒も納得するもの)を用意できるかどうかで「教材としての良否」が決まります。(cf. 答案を正しく評価できているか


❏ 誤肢の作り方にも新たな工夫が求められる

記述・論述問題だけでなく、選択式の問題においても、良問を作る条件は以前とは変わってくるはずです。

設問が試そうとしている知識や理解の有無を試すのであれば、誤肢(誤りの選択肢)を作るのも比較的単純でした。

同一ジャンルの別の用語を並べたり、正解のセンテンスを作っておいてから一部を誤りに書き換えるぐらいで十分なことが多かったはずです。

しかしながら、新しい学力観(コンピテンシーモデル)の下では、誤肢作りに違ったアプローチが必要になります。
  • 所与の情報から導き出せる範囲を逸脱して前提を設定した場合
  • 学習型問題において、問題文を十分に理解できていない場合
などに想定される誤った答えを誤肢として用意する必要があります。

前提から結論を導くまでの論理に飛躍や欠落が含まれているものも誤肢に用意すれば、誤りである理由を説明させることで、思考を積み上げるときの注意点なども学ばせることができそうです。


❏ 出題研究の成果を授業に活かすときに

出題研究を通して"問い方"を学ぶことは、今後の授業改善の方向を考えるときに欠かせないものですが、従来の発想だけで良問/悪問の区別をすることはできなくなるのは、既に申し上げた通りです。

所与の情報から何がわかり、どこから先が不明かを峻別した上で、それをどうやって解明するか考える力が問われるようになると、従来は「不完全な問題」として排除されていた問題が良問に再評価されることも少なくないということです。

入試問題を授業の教材に使うときには、単に目新しい問題を引っ張ってくるだけでなく、どうやって生徒のアウトプットを正しく評価する(=数値に置き換える)か、採点基準をしっかり考えるところが大事です。

正解が一つに決まらない問題の採点には、採点ルーブリックを導入する必要がありますが、副作用を抑え、効能を最大化するルーブリック評価の運用もしっかりと考えていかなければならない問題です。

校内外での研修でも、教え方・学ばせ方という指導方法と同じくらいの意識を向けて、問い方や採点の方法を考えていく必要があります。

■関連記事:
  1. 解いたことで成長ができる問題こそが"良問"
  2. 指導目標と指導方法が変わったら定期考査の問題も
  3. 教室でしかできない学びを充実~問いを軸に授業を設計


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一


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