答案を正しく評価できているか

先日の記事"学力観の変化は良問と悪問を分け方を変える"で申し上げた通り、高大接続改革以降の入試で出題の増加が予想される「答えが一つに決まらない問題」などの新しいタイプの問題では、採点基準の在り方しだいで、設問は良問にも悪問にもなり得ます。

答案を正しく評価することは、生徒の学びを正しい方向に導くことにほかなりません。新しい学力観に沿った出題が増える以上、それを正しく採点する方法の開発・確立は真っ先に取り組むべき課題の一つです。


❏ 与点を合理的に説明できることが採点基準の絶対要件

答えが一つに決まらない問題といっても、採点者の主観や印象で適当に点数をつけるわけにはいきません。

公平性が絶対要件となる大学入試などのテストならなおさらです。

入試に限ったことではありませんが、あらゆるテストでは「与えた点数に対する説明責任」が問われますので、採点する側に加点・減点の裁量が認められるのは、自ずと以下のようなものに限られます。
  1. 設問に示された解答条件をきちんと守っているか
  2. 問題文(リード文や本文)を正しく理解しているか
  3. 問いが求めていることに過不足なく答えているか
  4. 理解したことをもとに考える中で論理の飛躍や破たんはないか
これは定期考査や日常の課題を採点するときにも変わりません。

問題文中に明示される/論理的に導ける範囲を逸脱している採点基準では、与点の合理的・客観的な説明ができませんよね。ましてや時々耳にする「印象点」では説明不能です。

また、仮に評定に関わらない場合でも、生徒の学びに好ましくない影響を及ぼすことも、常に意識しておきたいところです。


❏ 合理的な採点基準が、生徒の学びに方向性を与える

その場その場で恣意的に設定された採点基準を示されていては、問いにどう答えるべきか、どんな答案を書けば良いのか、生徒は混乱を深めていくばかりであり、学びの方向性を見失いかねません。

合理的な採点基準を常に示すことを心掛け、生徒にはその基準に照らして自分の答案を評価する練習を課しましょう。

そんな練習を積み重ねるうちに、生徒は徐々に、採点基準が示されていないとき(例えば答案を提出する前)でも、採点基準を想定して自己答案の推敲ができるようになっていくはずです。

設問に与えられた条件から採点基準を導き出す過程を説明したり、生徒自身に採点基準を起こさせてみたりすることも、答案評価の力を養うのに有効かと思います。

自分の答案をみて、どこがまずいか気づけないことには、答案をブラッシュアップする中で学びを深めることも、他者の理解と共感を得るための表現力を身につけるトレーニングを積むこともできなくなります。


❏ 採点結果と自己採点が一致しないことの背景には…

大学入学共通テストの試行問題では、記述式問題における自己採点の不正確さが問題視されていますが、採点基準のあり方だけに改めるべき点があるのではないようにも感じています。

生徒が記述・論述問題に挑んだ経験の不足も、根っこの問題です。

定期考査などで課されるのが選択式や空所補充完成式に偏っていては、採点基準を正しく適用できる力は試されませんから、練習の必要性が見落とされていたとしても無理からぬところでしょう。

新テストで記述問題が課されたことで、そうした力を養えていなかったことが白日にさらされたということではないでしょうか。

目の前に迫る高大接続改革以降の入試では、「読んで理解したことをもとに考え、表現する力」がこれまで以上に重視されますので、その対策にも記述・論述問題を課す機会は増えてくると思います。

その中で、採点基準のあり方と、それに照らした自己採点・自己添削を正しく行う力にも注意が向くようになるのではないでしょうか。


❏ 合理的な採点基準を用意し、生徒に適用させる練習を

自己答案を厳密に採点するトレーニングを生徒に積ませることの必要性は、既に申し上げた通りです。

記述・論述問題に挑む機会が増えるのは必然だとしても、その上で、自己答案を客観的に評価することを生徒にも求めないことには、その力を養うことはできません。

先生方が、しっかりとした採点基準を用意し、それに照らした自己採点は生徒に課していきましょう。

採点は先生の仕事であり、生徒にやらせるものではないとの一部に聞かれる主張は、自己採点・自己添削ができない限り、答案のブラッシュアップとそれを通した学びの深めが不可能であるという現実の前には、説得力も持ち得ません。

ましてや、将来的に出題が増えるであろう、採点ルーブリックを導入せざるを得ない「正解が一つに決まらない問題」(ちなみに新テストの記述問題は、このタイプではありません)では、自己採点のトレーニングは不可欠なものになり、指導計画に組み込む必要が出てくるはずです。

生徒が書いたものを好意的に解釈し、答案に不合理なところがあったとしても厳格な減点はしないようなことがあれば、「このくらいでだいじょうぶじゃない?」という誤解を持たせ、生徒の学びを阻害します。



教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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