新しい学力観にそった授業と家庭学習の再設計

高大接続改革や新課程への移行で学力観も新しいものに更新を図る必要があります。学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められることは拙稿でもお伝えしました。しかしながら、授業外学習時間の延伸という課題には、宿題・課題の増量といった昔ながらの解決策しか用意できず、十分な成果があがっていない学校もあるようにもお見受けします。

荷物を増やしても、学びが膨らむとは限らないという問題もあります。指導者にとって、その宿題、本当に必要ですか?副教材、こなしきれていますか?という日々の自問はこれまで以上に重要になりそうです。


❏ コンピテンシーモデルに基づく新タイプの問題

高大接続改革以降の入試で求められる学力の中には、誰かに教えられり、知識を増やしたりするだけでは身につかないものが含まれます。

これまで学んだことがない事柄を説明している文章や資料を読ませ、その場で理解したことを土台にして問いへの答えを考える、いわゆる「学習型問題」で測定しようとしている学力などはその典型です。

大学入学共通テストの試行問題でも「正解は何か/理由は何か」ではなく、「どうやれば解を導けるか」を訊く問いが目を引きました。

従来型のテスト問題と、新しく登場してきたタイプの問題とをざっくりとながら対比してみると以下のような定義になりそうです。

従来型のテスト問題新しいタイプのテスト問題
これまでに何を学んできたか(≒どこまで理解を広げ知識を蓄えてきたか)を問うパフォーマンスモデルの学力観に根差したもの現時点で何ができるか(≒正しく理解できるか、論理的に思考できるか)を問うコンピテンシーモデルの学力観に沿ったもの

コンピテンシーを測ろうとする新しいタイプの問題が増えてくれば、勝敗を分けるのは、「どれだけ覚えて試験会場に臨むか」から「その場でどこまで理解して考えられるかが勝負」に変わっていきます。

教科書に書かれていることと、根っこにある本質的な理解は、「理解して考える土台」として扱われ、問題文中に書かれることはありませんが、その先のことは知識としての所持を求めないよう、問題文の中に必要な事柄はすべて明記する措置が取られます。

理由は簡単、知識の有無(=学んだことの有無)で有利・不利が生じるようでは、コンピテンシーを測定するとの出題意図に反するからです。


❏ 入試問題の変容が、指導戦略に変化を迫る

新しい学力観に沿った大学入試問題の変容は、日々の授業のデザインにも変化を求めます。高大接続改革の目的は当初から「入試を変えることで中学・高校の授業のあり方を変える」ことでしたから当然です。

共通一次試験も大学入試センタ試験も、出題には高校現場での教育の邪魔をしないという配慮が見受けられましたが、新テストの試行問題を見るとそんな配慮はどこへやら。

理解したことをきちんと覚えることの先にで書いた通り、「高校までの学びはかくあるべし」とのメッセージが随所にちりばめられています。

こうした変化を鋭敏に察知し、知識の効率的伝達を旨とした教え込む戦略から、科目固有の学習内容を理解させる中でコンピテンシーの増大を図る「学ばせ方」への転換を図れるかどうかは、生徒の進路希望実現にも影響を及ぼしかねません。

できるだけ多くの問題を解かせ、副教材で知識の拡充を図らせるという戦略が、これまで難関大学合格者数という実績を作ってきたとしても、これから先も同じように通用する保証はなさそうです。


❏ 授業デザインと予習・復習の位置づけを見直す

授業では教科書に書かれたことを先生が説明し、生徒はそれをノートやプリントに書き込んで持ち帰り、定期考査までに覚えるという、学びの流れでは、新しいタイプの問題が試そうとしているコンピテンシーの増大を図るのは難しそうです。

読んで理解する力を養おうとするなら、少なくとも「わかるように書かれているもの(=教科書や副教材)」は、生徒が自力で読んで理解することを求めるべきでしょう。

先生が先回りして説明してしまっては、読んで理解する力、わからないことは調べようとする姿勢を養うチャンスが奪われてしまいます。

 ■ 教科書をきちんと読ませる

生徒が教科書を予習の段階で読んでいるのは、現状では、英語と国語くらいかもしれませんが、教科書を読むことを予習で求めるのを他の教科にも拡張してみるべきではないでしょうか。

ただし、単に読んで来いというだけでは、機械的に目を通すだけになりがちですし、読むという作業が自己目的化しては、モチベ―ションの原資である達成感も得られません。

教科書の該当箇所に書かれていることをもとにじっくり考えれば解ける問題を予め与えておき、その答えを作ることをタスクとすることで、内容を捉えながらじっくり読むことを促しましょう。

時には、予習で読んでくる範囲だけ指定して、その中に問いを立てさせるのも良いと思います。範囲に未習事項が含まれていても、参考書もあれば、便利なスマホだってありますから、自分で調べれば済む話です。

 ■ どんな問いを立てるかで授業デザインは決まる
 ■ 生徒に問いを立てさせる

挑んでみたけど解けなかったとしたら、読んで理解する力か、理解をもとに考える力が不足しているということです。それを自覚することは、教室に臨んでの学びに目的意識を持つことにも繋がりそうです。

予習を通じて作ってきた「仮の答え」を教室でシェアすれば、より良い答えに近づくための協働も促され、対話的な学びも実現します。

復習においても、授業中に理解したこと/気づいたことをもとに、予習で作った仮の答えをより良いものに仕上げることや、わかったことからもう一歩踏み込んで考える必要がある問いに挑むことで、より深く、広い、そして確かな学びが実現するのではないでしょうか。

■ご参考記事:
  1. 学習方策は課題解決を通して身につく
  2. 答えを仕上げる中で学びは深まる
  3. "主体的・対話的で深い学び"の実現に向けて



追記:

これまで家庭学習時間の多くを占めていたのは、副教材をベースに進める知識の拡充や、いわゆる問題演習だったのではないでしょうか。

知識の拡充を目的とする副教材で生徒の荷物を重たくする戦略には見直しが必要になりそうです。少なくとも、進路希望などの生徒個々のニーズに合わせて行うことが大切だと思います。

演習量を増やすのは、様々なタイプの問題を解く中で解法という知識の蓄積を期待してのことだと思いますが、入試問題が如上の変化を遂げる中、解法を"知って"いる問題を増やすことで対応できる範囲は限定的かもしれません。

どんな予習を課しどんな課題を与えるかは、それ自体で解を見つけるべき問題ではなく、どんな授業を作るかを考え尽くしたときに、自ずと答えが出るようにも思えます。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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