自力で学ぶ力を育むのに重要な、最初に選ぶ”対話の相手”

授業中に問題演習を行っているとき、生徒に「わからないことがあったら手を挙げ(て質問し)なさい」と声をかけるのは教室でよく目にする光景です。明示されていませんが、質問する相手は「演習の様子を観察している先生」が意図されています。

生徒の疑問にきちんと答えるのはもちろん先生方の大事な仕事ですが、不明解消の方策を学ばせる/学習者として自立に向かわせるなら、最初に問いかけさせるべき「相手」は別にいると思います。

学習者にとって、眼前にある問いの正解が分かること以上に、学び方/不明の解き明かし方に習熟していくことも大切なはずです。

2019/07/08 公開の記事をアップデートしました。

❏ 対話の相手として最初に選ぶべきは…

学びにおける対話は以下の3つに区分できます。

  1. 話し合いや教え合いなどの生徒同士の対話
  2. 問答を通した先生と対話(発問と発言)
  3. 教科書や参考書を読んで行うテクストとの対話

わからないことがあったとき、その解消には「対話による知識や発想の交換」が用いられますが、「学習者としての自立/自ら学び続けられる生徒を育てること」を目指すなら、他の2タイプよりも先ずはテクストとの対話に頼らせるべきです。

新しい学力観の下で「自力で読んで理解したことをもとに考える力」はこれまで以上に重要です。「どれだけの問題の解法を知っているか」ではなく、「その場でどこまで理解し、考えられるか」(=自力で何ができるか)が問われるようになります。

学習型問題への対応力を養うことも念頭に置く必要があります。生徒には「自力で読んで理解する」ことを日々の教室でしっかりと求め、じっくりとその力を養っていきたいところです。


❏ 基本は「まずは調べさせ、わかったら友達に教える」

本校のタイトルである「自力で学ぶ力を育むのに重要な対話の順番」とは、このように考えるべきではないでしょうか。

まずは、教科書や参考書を頼りに調べて考える
(読んで理解する力を高めるトレーニング)

それでもわからないことは、周囲に訊いてみる
(教え合いを通した分散知の使い方への習熟)

周りに訊いてもなお分からないなら、先生に質問する

調べたり聞いたりして理解したことは、友達に教えてみる
(言語化を通じた理解の深化、記憶への定着)

一般に、「対話」というと、教え合い・学び合いや討論といった、生徒の間で交わされるのものが真っ先に思い浮びますが、必ずしも一番最初に来るべきものではありません。

まずは、教科書や参考書を頼りに調べて考えることで、読んで理解する力を高めるトレーニングを積ませたいところです。

教室で身につけさせなければならないことをしっかりイメージし、正しい順序で活動を配列するようにしましょう。



❏ 学び方を身につけさせて学習者として自立させる

科目を苦手とする生徒が多いクラスほど、丁寧に分かりやすい説明を聞かせることで先に進もうと考えてしまいがちですが、苦手でいるのは、自力で不明を解消するすべを獲得していないからです。

生徒が学び方を覚えなければ、いつまでたっても苦手なまま、丁寧に教えてくれる人に依存したままになってしまいます。

覚えるだけ、言われたことをこなすだけでは、困りますよね。自力で学べる生徒を育てることこそ、目指すべきものではないでしょうか。


学習内容を生徒に代わってわかりやすくかみ砕き、飲み込みやすくしてあげるというのは、本来ならば「最後の手段」に取っておくべきもの、抑制的に使うべき方策なのかもしれません。

参照型教材を徹底して使い倒すように指導していれば、生徒は「わからないことがあったら、この本で調べれば良い」という意識を持ち、すぐに手元の参考書や教科書を開くようになるはずです。

既習内容の確認は問い掛けで行うこともその習慣作りに役立ちます。

もし、疑問を抱えながら先生が机間指導で回ってくるのをじっと待っている生徒がいたら、如上の指導が徹底されずに主体的に学ぶ姿勢や方策を獲得させていなかった、ということではないでしょうか。


❏ 先生の指示や説明を聞くとき以外は自由に対話させる

先生からの説明や指示にはきちんと耳を傾けてもらわなければなりませんが、問題演習などに入ったら、生徒には自由に対話をさせても良いのではないでしょうか。

教科書やノートを参照してもなお解らないことは「周囲に相談しても良い」というルールにしておきましょう。

自力で粘りたい生徒は自力で頑張るでしょうし、教えてもらいたい生徒は教えてくれそうな生徒を見つけて助けを求めることもできます。

教えを請われた生徒も、自分で理解したこと/考えたことを「わかっていない相手にわかるように説明する」ことの練習機会が得られます。

新テストの試行問題でも、自分の考えを他者に理解してもらう場(証明の方法を説明するなど)を想定した問題が登場していました。

第三者の理解と共感を得るだけの言語能力が身についているかを試すという狙いに加え、高校の教室でもそのような場面を作って欲しいというメッセージを込めているのだと思います。


❏ 多くの生徒が躓くところは先生からの問い掛けで

しかしながら、教室をずっとこの状態にしておいては弊害があります。学力が高い生徒が、他の生徒の質問対応に時間を取られ、先に進んで自分の学びを深める時間を確保できないのでは困りますよね。

多くの生徒が共通して引っかかるところは、先生からのクラス全体に対する発問で気づかせることで、乗り越えさせていきましょう。

ただし、生徒が活動しているのを先生が話し始めることでストップさせるのも面白くありません。せっかく能動的に学んでいたのが、聞くだけの受動的な学びに引き戻したくはないものです。

別稿「演習中にワンステップずつ進める板書」で書いたように、生徒が自力で問題に挑んだり、教え合ったりしているのを邪魔しないよう、先生は口を開かず、黒板を介して発問や助言を行うのが好適です。

生徒がひと通り問題を解き終えたタイミングで、如上の板書に立ち戻って、問いや助言に対する生徒の思考を言語化させていけば、端から先生が説明してしまうよりも、はるかに深い学びになりそうです。


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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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