自力で学ぶ力を育むのに重要な、最初に選ぶ”対話の相手”

授業中に問題演習を行っているとき、生徒に「わからないことがあったら手を挙げ(て質問し)なさい」と声をかけるのは教室でよく目にする光景です。明示されていませんが、このセリフの直接目的語は、当然ながら「わからないこと」、そして間接目的語はおそらく「机間指導中の教員」だと思います。

生徒の疑問にきちんと答えるのはもちろん先生方の大事な仕事ですが、不明解消の方策を学ばせる/学習者として自立に向かわせるなら、最初に問いかけさせるべき相手は別にいると思います。生徒にとっては、当座の正解が分かること以上に、学び方/不明の解き明かし方に習熟していくことも大切なはずです。


❏ 対話の相手として最初に選ぶべきは…

拙稿「対話が思考を育み、深い学びを実現する」「対話と協働による気づきと学びの深まり」で書いた通り、学びにおける対話は以下の3つに区分できます。

  1. 話し合いや教え合いなどの生徒同士の対話
  2. 問答を通した先生と対話(発問と発言)
  3. 教科書や参考書を読んで行うテクストとの対話

わからないことがあったとき、その解消には「対話による知識や発想の交換」を用いますが、「学習者としての自立/自ら学び続けられる生徒を育てること」を目指すなら、まずは他の2タイプよりもテクストとの対話を優先すべきです。

高大接続改革以降、自力で読んで理解したことをもとに考える力はますます重視され、「どれだけの問題の解法を知っているか」ではなく、「その場で考えて何ができるか」が問われるようになります。

学習型問題への対応力を養うことも念頭に置かなければなりません。「自力で読んで理解する」ことを日々の教室でしっかりと求め、じっくりとその力を養っていくのが、新しい学力観にそった学ばせ方になると考えます。


❏ まずは調べさせ、わかったら友達に教える

本校のタイトルである「自力で学ぶ力を育むのに重要な対話の順番」とは、このように考えるべきではないでしょうか。

まずは、教科書や参考書を頼りに調べて考える
(読んで理解する力を高めるトレーニング)

それでもわからないことは、周囲に訊いてみる
(教え合いを通した分散知の使い方への習熟)

周りに訊いてもなお分からないなら、先生に質問する

調べたり聞いたりして理解したことは、友達に教えてみる
(言語化を通じた理解の深化、記憶への定着)

「対話」というと、教え合い・学び合いや討論といった生徒同士のものが真っ先に思い浮びますが、必ずしも一番最初に来るべきものではありません。

教室で身につけさせなければならないことをしっかりイメージし、正しい順序で活動を配列するようにしましょう。

その科目を苦手とする生徒が多いクラスほど、丁寧に分かりやすい説明を聞かせることで先に進もうと考えてしまいがちですが、苦手でいるのは、自力で不明を解消するすべを獲得していないからです。

生徒が学び方を覚えなければ、いつまでたっても苦手なまま、丁寧に教えてくれる人に依存したままになってしまいます。

覚えるだけ、言われたことをこなすだけでは、困りますよね。自力で学べる生徒を育てることこそ、目指すべきものではないでしょうか。


学習内容を生徒に代わってわかりやすくかみ砕き、飲み込みやすくしてあげるというのは、本来ならば「最後の手段」に取っておくべき、抑制的に使うべき方策なのかもしれません。

参照型教材を徹底して使い倒すように指導していれば、生徒は「わからないことがあったら、この本で調べれば良い」という意識を持ち、すぐに手元の参考書や教科書を開くようになるはずです。

もし、先生が机間指導で回ってくるまでじっと待っている生徒がいたら、如上の指導が徹底されていないということではないでしょうか。


❏ 先生の指示や説明を聞くとき以外は自由に対話させる

先生からの説明や指示にはきちんと耳を傾けさせなければなりませんが、問題演習などに入ったら、生徒には自由に対話をさせても良いのではないでしょうか。

わからないことがあったら、教科書や参考書、ノートなどをどんどん見て良いことにしたうえで、「周囲と相談してもいいよ」というルールを教室の中に定着させておけば、不明点を前に立ち止まる時間も減り、学びを先に進められます。

周りから相談された側の生徒にしても、読んでわかったことを他者に説明してみることは、理解をより確かなものにするのはよく知られたところです。

相談しても良いという選択肢を与えておくことで、自力で粘りたい生徒は自力で頑張るでしょうし、教えてもらいたい生徒は教えてくれそうな生徒を見つけて助けを求めることもできます。

教えを請われた生徒の側でも、自分で理解したこと/考えたことを「わかっていない相手にわかるように説明する」ことの練習機会を得ることになります。

新テストの試行問題でも、自分の考えを他者に理解してもらう場(証明の方法を説明するなど)を想定した問題が登場しています。第三者の理解と共感を得るだけの言語能力が身についているかを試すという狙いに加え、高校の教室でもそのような場面を作って欲しいというメッセージを込めているのだと思います。


❏ 多くの生徒が躓くところは先生からの問い掛けで

しかしながら、教室をずっとこの状態にしていると弊害も生じます。

学力が高く、理解したり解いたりするのが早い生徒は、他の生徒の質問対応に時間を取られ、先に進んで自分の学びを深める時間を確保できません。

多くの生徒が共通して引っかかるところは、先生からのクラス全体に対する発問で気づかせることで、乗り越えさせていきましょう。

問い掛けて考えさせ、生徒の発言を引き出して確認したことは、その都度板書して生徒の視野に固定していくことが重要です。先に進むための前提理解をクラス全体で共有するために欠かせません。

こうした先生からの問い掛け、確認、板書を行っている「隙」に、既に解き終え正解していた生徒は、問題集を先に進めたり、明日の予習を先取りしておいたりと、手空き時間を有効に使えるようになるはずです。


以下の記事も、お時間の許すときにお読みいただければ光栄です。

演習中にワンステップずつ進める板書

生徒が問題演習を始めたら、生徒の様子を見てタイミングを計りながら、生徒が辿るべき思考のプロセスをひとつずつ黒板に書き出していきましょう。一定の数の生徒があるプロセスに到達した様子であれば、確認させるために板書を進めるタイミングです。もう一つのタイミングは、多くの生徒が躓いて解く手が止まったときです。板書で援護射撃をしてあげましょう。生徒が見落としているポイントを色チョークで板書に添え書きするのはいかがでしょうか。



教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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