最短の進路がベストにあらず

普段乗ることがあまりない路線を利用したとき車内を見回していたら、専門学校の中吊り広告に「私の進路は最短距離」というコピーを見つけました。ある職業を志す決意で入学する専門学校である以上、進路希望という夢を最短距離で実現させることが求められるのは当然ですが、これが高校での進路指導となると全く別の話になります。


❏ 寄り道が視野を広げ、正しい選択を可能にする

高校の進路指導は、「進路希望や志望理由を作るフェイズ」と「希望の進路を実現させるフェイズ」の2つで構成されますが、最短距離を歩ませて良いのは後者だけです。

高校の3年間(中高の6年間)で見出した興味を、調べ学習や探究活動で押し広げ・掘り下げて行く中で進むべき道の候補を見つけたのちに、その中から「自分事」として向き合えるものを選び出していくフェイズでは、寄り道をしながらしっかりと回りを見渡すことも大事です。

最短距離を歩むということは、途中で見ている周囲の景色も最小ということです。新幹線での移動は効率的ですが、時間をかけられる旅なら在来線も悪くありません。車窓も楽しめますし、気になる情報に触れて途中下車してみれば思わぬ景色に出会うこともありますよね。

知らないことが山ほどある中で、たまたま目にしたものを「自分に一番合ったもの」と決め打することのリスクは容易に想像できるはずです。

選択の前には、広く学び、深くものを観ることが重要です。

多くの選択肢をひとつひとつ吟味し、本当に向き合えるものとして選んだ進路なら、高大接続改革で志望理由の具体性と強さが合否判定の材料の一つになったとしても、何も恐れることはありません。


❏ 偶然との出会いと認知の網

ゴールを決めて最短距離?でも取り上げた、ジョン・D・クランボルツが計画的偶発性理論で言う「偶然との出会い」もまた、寄り道や一見無駄に見える道草の中に生じるものだと思います。

クランボルツが言うには「想定外の出来事がキャリアに影響を及ぼし、現実は人が考えている以上の選択肢を提供している」とのことです。

自分は本当は何が好きなのかを見つけるのにだっていろんなことを経験してみる必要がありますよね。思いもよらないところに食いつく自分を見つけて驚くことだって珍しくありません。

進路指導やキャリア教育の場だけでなく、学校行事や校外活動にも積極的に参加しながら視野を広く取り、ちょっとでも興味を持ったことは掘り下げて調べてみる習慣を持たせたいところです。

教科学習指導でも、「進路実現」だけを視座に効率を優先しすぎては、認知の網を偏りなく張ることができなくなります。どの科目も捨てることなく広く学ぶこと、5教科7科目をきちんと学ぶことが大切です。

キャリアは選ぶものではなく重ねるものと考えれば、寄り道の中で経験したものすら、その後の人生の糧になるのではないでしょうか。


❏ 進路選択は選択の力を養うかけがえのない機会

進路希望や志望理由を作るフェイズでは、いくつもの選択を重ねる中で生徒は「選択の力」を身につけて行きます。

選択に臨むには情報収集が欠かせませんが、そこでは何事も鵜呑みにせず一つひとつ確かめていく姿勢(ファクトフルネス)を身につける必要があります。不十分な情報/誤った情報に基づく判断では、間違った的に矢を射る愚を犯すことにもなりかねません。

進路選択は「正解が一つではない問い」の典型ですので、多様な考えを踏まえた上で、どこに軸足を置くかを決めますが、この思考プロセスにも十分なトレーニングが必要です。

こうした「選択の力」の土台になるものを身につけるには、さしせまった自分事として決してないがしろにできない「進路選択」は他に代えがたき絶好の機会だと思います。

生徒には、納得できる進路を選び出せればそれで良いのではなく、進路を選ぶプロセスの中で、これからの人生を生き抜くのに最も大切なものの獲得に挑戦してもらうよ、と伝えたいところです。



ひょんなきっかけで本稿を起こしましたが、これを機に、以前に起こした以下の記事もアップデートしたいと思います。2019/09/17 更新完了

進路指導で育む“選択の力”(その1)
進路指導で育む“選択の力”(その2)
キャリアは選ぶものではなく重ねるもの


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一