模擬試験で記載した志望校を確認しての指導

模擬試験を受験するときに生徒がどんな志望校を書いているか、きちんと目を通して把握しておく必要があると思います。言うまでもなく、生徒が記入した志望校群を漫然と眺めて、「ああ、こういう大学を志望しているのか」と受け入れているだけは不十分でです。

第一志望から順に並ぶ大学・学部・学科が、きちんとした手順を踏んで選び出されたものか、十分な理由をもって志望校に挙げられているかを観点に、各生徒の志望校群を精査するべきですし、過去の模試で書いていたものからどう変化しているかにも着目です。


❏ 志望形成の過程を正しく踏んでいるか確かめる

模試の受験マスタに記入した志望校群に、担任の先生が毎回ひと通りは目を通しているかを尋ねてみると「必ずしもそうとは限らない」というのが現実のようです。

生徒が進路希望を具体化していく過程では、まずは「学びたいこと」があって、それを学ぶのに適した学科(学部)を選んでいくのが最初にあります。このステップを踏んだ後に、それらの学部・学科を設置している大学を探し、諸条件(通学圏内か、合格できるかなど)を満たすところを志望校とするのが本来の流れであるはずです。

もし、生徒が挙げた志望校に「学びたいこと」を起点にしている様子が見られなかったり、学科(学部)の選択に一貫性がなかったりしたら、進路意識を形成する指導がその生徒には十分な成果をあげていない可能性が高そうです。

面談などを通じて、本人の話をじっくりと聴き、志望校選択までの工程を改めてきちんと踏ませる必要があるはずですが、もし、生徒がどんな志望校を挙げているのか把握していなかったら、指導が必要な局面であることにも気づいてあげられません。


❏ 模試を受験させる前の、志望校記入についての指導

志望校記入を伴う模試を初めて受験する生徒には、事前に十分な指導を行う必要があると思います。

大学を先に選ぶのではなく、学びたいことを学べる学科(学部)を選び出すのが最初であることの念押しは言うまでもなく、選ぼうとしている大学の一つひとつに、「選ぶだけの十分な理由を自分が持っているか」を問い掛け、その理由を文字にさせてみることも必要かもしれません。

このような指導は、模試の前日にやっても、準備に不足があった生徒がそれを補うだけの時間がありません。模試の申込をさせるタイミングなどは如何でしょうか。

通例、模試の実施日までひと月程度の余裕がありますので、当日まで/実施前週のHRまでの宿題にして、生徒一人ひとりにじっくりと考えさせるのも悪くないと思います。

十分な検討をせずに、記入欄があったからと何となく勢いで書いてしまった志望校でも、ひとたび文字にしたことで意識の中に何らかの痕跡が残るものです。場合によっては、その後の進路選択に視野が狭まるなどの問題が生じるリスクもゼロではありません。

必要な指導を怠ることで、余計なリスクを招けば、事後の指導にさらに大きな負担を抱えるとになりますし、生徒も進路希望の形成と具体化に後手を踏んでしまいます。


❏ 前回までの模試での志望校との変化にも着目

模試を重ねる中、志望校が変化していくのは珍くありません。むしろ、半年以上に亘って志望校の配列がずっと変わらないのはかなりの特殊なケースではないでしょうか。

ころころ変わるのは、まだ理由を持った進路選択ができていないということです。進路意識形成のプロセスをしっかり踏ませていきましょう。

ある程度志望が固まってきた段階を迎えた後で、前回まで記入していたものと違う志望校を書いている生徒がいたら、ちょっと声をかけるなどして「志望変更の理由」を確かめておくべきだと思います。

ポジティブな理由での変更なら問題ありませんが、学業成績が伸びないなどのネガティブなものであれば、志望校を変える前にやるべきこと(学習方法の改善、時間の使い方の見直しなど)があるはずです。

一度下方修正して固まった進路希望を元のターゲットに戻すのは至難の業です。生徒の志望校の変化は遅滞なく捉え、固まり切らないうちに助言と励ましを与えられる態勢を取ることが大切だと思います。


❏ 志望校の把握と面談指導

模試の志望校欄に記入した事柄は、進路面談を行うときの重要な資料としてしっかり活用しましょう。

これまでの模試で出力された帳票の担任用控えをみれば、現時点の志望とこれまでの推移はその場でも確認できますし、ICTの整備が進み、タブレットでデータを見たり、シミュレーションしてみるのも簡単になってきましたが、合格可能性だけを見ても面談の用をなしません。

志望校に挙げた大学・学部の一つひとつについて、選択までの過程をきちんと踏み、しっかりとした志望理由を持って書いているかどうか、質問を重ねながら確かめて行きましょう。

問い掛けて、質問への答えを言葉にさせることは、生徒自身が現時点での自分の考えに向き合い直し、これまでの思考の経緯を振り返る好機になります。

進路選択に向けた「専門家」としてのアドバイスをすることよりも、志望理由を掘り下げて行く方が、強く根を張った進路希望を作ることに繋がるようにも感じています。


❏ 教科担当者が生徒の志望校を把握しておく必要性

教科担当者としても、生徒がどんな大学・学部・学科を目指しているか把握しておかないと、教える側での出題研究のターゲット選択を間違えますし、生徒が挑もうとしているハードルがどんなものか、把握しないまま学習指導を設計してしまうことになります。

模擬試験ごとに進路希望の分布を確かめ、ターゲットとすべき大学群の入試が求めている力を養う機会をこれまでの授業が十分に備えていたか確認し、必要があれば指導計画を修正する必要があります。

また、受験に必要な科目であるはずなのに、授業への取り組みが甘くなったり、予習・復習が徹底されない様子が見て取れたときには、学級担任と情報を共有して適切な対応を取るべきですが、志望校を知らないのではそうしたセンサーも働かなくなってしまいます。

模試での志望校記入とは別に、決まった時期に進路希望調査を行っている学校も少なくありませんが、単に大学や学部を書かせるだけなら、模試の志望校欄をみるだけで十分なはずですし、模試業者から提供されたデータを加工すれば、改めて手打ちで入力をする必要もありません。

進路希望調査よりも模擬試験の方が実施頻度が高く、志望分布を常にアップデートして把握できるというメリットも小さくありません。



以前は多く見られた、特定の大学を先に思い浮かべ、そこで設置されている学部・学科から(多少なりとも)興味が持てそうなところ、合格できそうなところを目指すという「乱暴な選択」をする生徒は、キャリア教育や探究活動の充実が図られる中で減ってきたようですが、まだ少なくありません。模試の志望校記入は、その時点までの進路選択に向けた思考のアウトプットです。しっかり観察し、進路意識形成のプロセスを正しく踏ませる指導に役立てましょう。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一