終盤まで伸び足を止めないために

模擬試験の成績や授業評価アンケートのデータを見ていると、2年生のときの大きな低下(あるいは停滞)を3年生の前半で大きく巻き返したと思ったのに、夏を越えて受験期を迎えた途端にパタッと伸び足が止まってしまうことがあります。

原因は様々で、見立てを誤り拙速な対処策を考えると却って問題を大きくするリスクがあります。本稿をご参考に幾つかの類型を想定した上で生徒をじっくり観察し、慎重に原因を特定していきましょう。

センター試験も終わり、3ヵ年/6ヵ年の指導の成果が明らかになってくる頃です。もし、当期の生徒の動向に如上のパターンが見られたら、入学以来の指導のどこに改善の余地、必要があるのか探ってみるべきです。来年度の指導計画の立案は目の前に迫っています。


❏ 既習内容の理解が表層に止まった/定着が不足した

3年生の前半、特に序盤というのは、最上級生になった/いよいよ受験学年だという意識がありますので、新たに学ぶ単元に意欲的に取り組む生徒が多いはずです。選択して履修した科目であるがゆえに学びに対する自己効力感の高さも、それに拍車をかけます。

当然がなら、新たに学ぶことを一つひとつ積み上げて行き、単元の理解もしっかりとしたものになりますので、「授業を受けて学力が伸長している」と生徒本人が実感できる瞬間も多いはずです。

しかしながら、2年生までの授業で学んだことの理解が表層に止まっていたり定着が不十分だったりすると、不安定な土台の上に新たな理解を構築していることになりますので、どこかに落とし穴が待っています。

新たに学んだ単元の範囲内であれば、導入フェイズで先生が前提知識の確認をしてくれることもあり、その場でしっかり取り組みさえすれば、明らかな不明を残さずに勉強を進めることができるでしょうが、いずれは「ぐらついた石に足をかけてしまう」ことがあるはずです。

夏休みを過ぎて演習期に入ると、単元を跨いだ総合的な演習も増え、既習内量の理解をより広範に活用しなければならない場面が多くなることが転ぶ機会の増加に繋がり、それまでの学びを支えていた科目への自己効力感をぐらつかせてしまいます。


❏ 新単元に進む前の、既習内容の理解点検&再構築

冒頭で書いた通り、こうした事態は「2年時に低下や停滞が見られた学年」でしばしば観測されます。2年時での学習が十分な成果を得ていない以上、新たな学びを積み上げるべき土台の不安定さは最初から疑ってかかるべきです。

かといって、既習内容の復習ばかりしていたら、教科書は先に進みませんし、生徒も退屈するか焦り始めるかのどちらかでしょう。

カリキュラム通りに単元を進めつつ、関連する既習単元の内容理解を確かめる「プチ実力テスト」をこまめに行い、既習内容の深さを確かめていくのが好適です。

既習内容をきちんと(=深く)理解していれば解法を立案できる問題を用意し、新単元に入る前に授業内外で生徒に解答に挑ませましょう。

出来不出来を先生の側で把握した上で、設問毎の正誤や中途過程の成否に応じた補習課題(設問)を与え自力で答案を作らせることで、既習内容の復習(=理解の再構築)を図らせましょう。

正解を提示したり配ったりせずに、生徒同士での答え合わせや答案検討などで解決させるのも、相互啓発や互恵意識の拡充に役立ちます。

貴重な指導時間の中からひとコマの授業を如上の学び直しに割り当てることには躊躇もあるかもしれませんが、土台が不安定であることに気づかないままその上に家を建ててしまうリスクの方こそ避けるべきです。前提知識が確保されれば、その後の授業の進みも良くなるはずです。


❏ 深く考える習慣とその方策が獲得できていない

既習内容の理解が表層に止まっていたということは、授業で先生に教わったことを覚えることだけに偏った学び方をしていた可能性が高いはずです。学習方策は課題解決を通して身につくものです。

このまま3年生に進級しては、真面目に、意欲的に学んだとしても、教わったこと以上の課題解決力は身につかず、大学入試で課されるような応用問題や単元融合問題、思考力を試す問題などには歯が立ちません。

過去問演習や模試受験のたびに返り討ちに合うことが繰り返されては、自信も失えば伸びている実感にも欠くことになります。

2年生の内に、解法を自分で考えたり、その結果を他者に伝えるべく言語化したりするトレーニングを十分に積ませておきたいところです。

 ■ 次のステージに向かう準備は整っているか

しかしながら、3年生に進級した後で、そうした「学び方の不備」が露見しても嘆いているわけにはいきません。そうしたトレーニングの機会を3年生の授業でしっかり整えて行くことに頭を切り替えましょう。

一番怖いのは、学び方の不備(自ら思考する習慣と方法の欠落、不明やできていないことに気づかずそのまま放置してしまう習慣)に気づかずに受験期を迎えてしまうことではないでしょうか。

進級後の授業開き/オリエンテーションでは、新たに教える生徒も、これまで教えていた生徒も、初見の課題や問いを前に何ができるか、やらせてみて観察しながら、自ら修正させるようにしましょう。


❏ 演習量を増やす中で、個々の学びの目的が希薄に

もう一つ疑ってみなければならないのは、夏を越えて問題演習量が増える中、一つの課題に取り組む中での目的や点検すべきことが曖昧になっていることです。

できた/できなかったの積み重ねばかりでは、学びを進めて一つ上のステージに立つために何が必要かに向ける意識が希薄になりがちです。

受験期終盤と言えども、学習者としては発展途上です。常に自分の学びを振り返り、次に向けた課題を形成する必要があります。

できるようになるまで繰り返すという反復方策は、学びの成果に一定の貢献をしますが、偏りすぎると「学びへのメタ認知」が不足します。

終盤では、生徒が自分で課題を設定して学びを計画する必要が高まります。別の言い方をするなら、学びが個別化するということですので、自ら立てた学習計画に明確な目標を設定させることに注力が必要です。

 ■ 年度の後半で授業評価が下がる?(近日、更新予定)


❏ 教える側が、生徒の学びにブレーキを掛けないように

また、先生方の側でも1学期の指導で手応えがあるとその方法を継続してしまいがちですが、3年前半の頑張りで出来るようになった/させたことの上に、次の指導の目標を置く必要があるはずです。

2年時の学びの不備を補うべく、3年の新単元を丁寧に教え/学ばせることで一定の成果を得たら、その先は「できることはどんどんやらせる~生徒の邪魔をしない」というスタンスで臨みましょう。

但し、手は放しても目を離してはいけません。問題は小さなうちに芽を摘むことが大切です。

演習量を増やし、経験値を積ませても、それが応用の効く理解力・思考力、生きて働く知識・理解になる保証はありません。記憶再現型の学習、パターンマッチングに依存する課題解決に走らせては、本来目指すべき方向と違ってくるのではないでしょうか。

高校を卒業させる直前だからこそ、知識・理解や技能を獲得させるだけでなく、それらを生きて働くものにするには課題や問いにどう取り組むべきなのか生徒自身が考えるように仕向けて行きたいところです。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一