負荷を抑えて「できた気」にさせてしまうことのリスク

適正な負荷を掛けることは力を効率的に伸ばします。少し背伸びすれば手が届くところに目標が設定されてこそ、頑張ってみようという気にもなるのではないでしょうか。

生徒が学習内容を確実に理解できるようにと様々な工夫を凝らすのは良いことだと思いますが、課題の難易度を抑えたり、わかりやすさを優先し過ぎたりすると思わぬところに様々な弊害が生じます。


❏ 難易度と得意/苦手の分布の関係

既習内容の定着が不十分であったり、科目の学び方に習熟が不十分であったりと、生徒側のレディネスが整っていないときに難しい課題を与えて挑ませても、生徒は返り討ちに合うばかりです。

真面目に取り組んでいるつもりなのに、わからない/できないことが繰り返せば、苦手意識が膨らむ(科目の学びへの自己肯定感を失う)のは半ば当然かもしれません。

下図は、授業評価アンケートの集計データを用いて作成したものです。

横軸は、授業内容や課題の難易度を尋ね、「易しすぎる」から「難しすぎる」までの5段階で答えてもらった結果です。授業ごとの回答分布を-10から+10のスケールで得点に換算してあります。縦軸は、科目への意識姿勢(「苦手」から「得意」の5段階)での換算得点です。

難易度による意識姿勢の分布の違い.png
難易度が「ちょうどよい」に相当する0の前後では、意識姿勢はプラスの値(=得意寄りの意識が優位)ですが、難易度が上がる(=横軸の数値が大きくなる)に連れて、箱はマイナス領域に入り込んでいきます。

苦手意識が膨らめば、その科目を学び続ける意欲も失いがちですので、くれぐれも不要な苦手意識を抱かせないようにしたいものです。

授業内容や課題の難易度を学習者がどのように感じ取っているかは、本人に訊いてみないことには把握のしようがありません。

定期的に実施する授業評価アンケートや日々のリフレクションシートを使ってこまめに把握を測り、負荷の調整に反映させていきましょう。


❏ 得意寄りの意識が優位でも学びの成果は?

一方で、生徒が実感する学習効果(学力や技能の向上)が最大化するのは、下図に見る通り、難易度が「ちょうどよい」と「やや難しい」に相当する+2.0~2.5のあたりです。

画像

前掲の箱ひげ図と照らし合わせてみると、得意寄りの意識があきらかに優位な領域と、学習効果が最大化する領域との間にはズレがあります。

適正な負荷をかけずに、わかった/できた気にさせてしまうことには、学びを停滞させるリスクがあるのではないでしょうか。

わからないことやできないことと適度に遭遇する中で、必死に頭を使うことを繰り返せば思考力も鍛えられますし、どうにかしようともがく中で学習方策の獲得も進みます。学習者としての成長のチャンスです。

楽々とこなせるタスクだけでは如上のチャンスは中々巡ってこないかもしれません。ちょっときついハードルに挑んでクリアできたときの達成感は小さくないはず。学びへのモチベーションの向上も期待できます。


❏ 同じ負荷をかけても生じる意識姿勢の差

最初のグラフ(難易度×意識姿勢)を改めてご覧いただくと、横軸上の位置が同じでも縦方向の分布が小さくないことにお気づきと思います。

+2.5を下限値とする階級では、かなりしっかりと負荷をかけているのに箱の上端は±0に達し、4分の1の授業では得意寄りの意識をクラス全体でキープしています。その一方、+1.0に達しない授業でも、箱の下端はマイナス領域にあり、苦手意識を膨らませている様子が窺えます。

個々の生徒、集団としてのクラスによって「負荷耐性」が異なるということだと思います。

こうした違いを生んでいる要因のひとつは、不明が生じたときにそれを解消するすべを生徒が獲得しているどうかだと思われます。

丁寧に教えてきちんと理解させることはもちろん大切ですが、そればかりではわからないことに直面したときに取るべき行動、不明解消を図るための方策を学ぶ機会を生徒は持てません。


❏ 適正負荷の維持とPBL要素を含む授業デザイン

答えを導くべき問い/解決すべき課題を与え、どうすれば答えや解にたどり着けるかを考えさせたり、教科書や副教材、資料に当たることで必要な情報や知識を集め、編んだりさせることが、学習者として獲得すべき行動や方策を学ばせることに繋がるはずです。

学ぶことへの自分の理由をどれだけ強く持っているかによっても負荷耐性は違ってきます。

詳細は「学ぶことへの自分の理由と負荷への耐性」に譲りますが、学びへの目的意識を高めることで、より大きな負荷をかけても学びをあきらめず、学習効果を積み上げていくことを示すデータがあります。

ご担当されているクラスで、生徒にアンケートを取ってみれば、難易度と意識姿勢の分布は把握できるはずです。

回答分布からそれぞれの換算得点を算出して、上の箱ひげ図に当てはめてみてください。

箱の位置との相対関係から、学習方策の獲得や学ぶことへの自分の理由などで大きく左右される生徒の負荷耐性がどのくらいなのか、ある程度の推測がつくと思います。

箱の上端を超えているようなら負荷耐性はかなり強いと思われますし、下端を下回るようなら、学び方の獲得を目的とする指導に加え、学びに目的意識を持ち込ませるための働きかけが必要ということです。

■ご参考記事:
  1. 学習方策は課題解決を通して身につく
  2. 学び方そのものを学ばせる
  3. 自力で学ぶ力を育むのに重要な、最初に選ぶ”対話の相手”
  4. 振り返りを経てこそ次への課題形成
  5. 学習者としての成長を促す"活動評価"と"振り返り"
  6. 科目の学び方や取り組み方の獲得
  7. 科目を学ぶことへの目的意識/学ぶ理由


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一