デジタル・トランスフォーメーションと教室での学び

コロナ禍で、教育ICTの活用が一気に進みました。新たに開発・導入された技術やサービスが「新しい学力観に沿った学ばせ方」の実現に役立つところでは積極的に活用したいところです。

デジタル・ツールを活用することで指導法にも可能性が広がりますし、新しい道具は、思考法や行動様式も変えるため、従来の方法に拘っていては新しい時代が求める能力やスキルを育て損ねる可能性もあります。

しかしながら、「新しい技術やサービスを使うこと」は目的ではありません。あくまでも手段としての選択肢の一つです。(技術のブラッシュアップで「最適な選択」であることが増えていくでしょうが…。)

目指すべきは「深く確かな学び」や「学習者としての自立」です。新しい技術で広がった「教具の選択肢」から、指導の場面ごとに最も有利/効果的なものを冷静に見極め、使い分けられるかが問われます。


❏ 学習の工程を場面ごとに分けて考えてみる

ある単元の内容を学ぶときのプロセスは、複数のフェイズに分けることができるはずです。大雑把なところでは、
「ベースとなる知識・理解の形成」
「それらを使った課題解決(思考への活用)」
「対話による気づきの交換(思考の拡充と深化)」
「答えの仕上げを通した、深く確かな学びの実現」
といった感じでしょうか。

上記以外にも、読んで理解したことの中に問いを立ててみたり、考えたことを他者の理解と共感が得られるように表現したりと、他にも様々な活動があり、それらが組み合わさって一連の学びは構成されます。

ひとつのこと(=単元内容)を学ぶ中でも、順番に踏んでいく場面の一つひとつに獲得を目指すべき能力やスキル、学びの姿勢といったものがあり、当然ながら、そのために配列すべき学習活動もそれぞれです。

 ■ カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計する


❏ ベースの知識を整えるところは動画も効果的

教科書に書かれていることをひと通り理解させるだけなら、しっかりと作り込んだ解説動画で十分に役割を果たせるかもしれません。

教室での「ライブ」では、瞬間ごとの理解を着実に積み上げていく必要がありますが、動画であれば巻き戻しも可能です。既にわかっているところは早送り/シーンスキップで無駄な時間も省けます。

上手に活用した解説動画は、生徒の理解力や既習内容の定着度の違いを吸収する、「学びの個別化」に有用な道具になり得るということです。

生徒が躓きやすい箇所だけでも、解説動画を整えておけば、質疑応答もより効率的に、かつ手厚くできるのではないでしょうか。

 ■ 動画で授業を完結しない~授業を構成するパーツとして

動画の作成は面倒ですが、慣れてくれば負担も減ります。完成すれば同じ解説を何度も繰り返す労力から解放され、浮いたエネルギーを生徒の対応や教材研究、授業のブラッシュアップに向けることができます。

ちなみに、動画で自分の授業をモニターすると、思わぬところに改善課題が見つかることも少なくありません。(cf. 自分撮りのススメ

動画作成は教科内での分業/協働で取り組むのが好適です。互いに知恵を出し合うことでより良いものも生まれますし、クラスや年度を跨いだ制作作業の重複を排することで、仕事の総量も減らせます。


❏ 自ら情報を集め、知に編む工程をきちんと踏ませる

単元や学習項目ごとに動画を用意し、予習替わりに自宅学習で視聴させておけば、教室の中で対面で行う学習活動は「その先」に設計することができ、対話的で深い学びの実現を大きく引き寄せられそうです。

しかし、わかりやすい解説動画を見て理解することの繰り返しで、それ以外の学び方が身についていなければ、そうした教材が用意されていないところでは自ら学びを進められないという事態にも陥りかねません。

目の前に解決しなければならない課題があるのに、解決に必要なパーツや工具を自力で集められないようでは、何もできないのと同じです。

教科書や副教材を自力で読んで、必要な情報を集めて、課題を解決し得る知に編み直す力と方策を身につけさせるべく、教室の内外でそうした場面を経験させていく必要があるはずです。

また、解説がわかりやすければわかりやすいほど、生徒はそれを鵜呑みにしがちです。本当にそうか確かめてみたり、どうしてそう言えるのか根拠を考えてみたりする姿勢を持たないのでは無防備に過ぎます。

読んで理解したことの中に新たな問いを立て、背後まで思慮を巡らしてより深く理解する姿勢と方法を身につけさせることもまた、学習指導における目的の一つではないでしょうか。

21世紀型能力のコアをなす【思考力】の構成要素は、問題解決・発見・想像、論理的・批判的・創造的思考、メタ認知・学び方の学びです。これらを獲得できる場を整えているか、常に点検が必要です。

また、教育のデジタル・トランスフォーメーションがどれだけ進んだとしても、教科書をきちんと読ませること参照型副教材を徹底的に使い倒させることの必要性は変わらないと思います。

しかしながら、ただ「読め/使え」と言うだけで、そうした姿勢を身につけてくれるはずもありません。

別稿「リモート学習の可能性と十分な成果を得るための前提要件」でも書いた通り、読んで理解し、思考を表現する要素を備えた課題を与えることで、読むこと/調べることに目的を持たせることが大切です。


❏ 対話による気づきの交換や答えのシェアでの相互啓発

思考は「対話による気づきの交換」で拡充/深化が図られるものですので、動画を見せて「はい、理解できましたね」では済まないはずです。

教科書や参考書を読んで理解しても、もしかしたら、ある側面だけしか見ていないかもしれません。

対面で行う教室内での学びの中で、充実させる必要が最も大きいのは、対話による気づきの交換だと思います。

学力の三要素で「思考力」と並んでいる「判断力」は、物事の多様な見方や価値観を知り、思い込みや独善を離れたところで身につくはずですし、もう一つのサブ要素である「表現力」も、理解や思考を言語化し、他者の理解と共感を得ようともがく中で獲得が進むものです。

 ■ 生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発)

生徒がそれぞれ作った答えのシェアには、デジタル・デバイスを上手に活用するのが効果的です。その場での発言だけでなんとかしようとすると、一部の生徒が主導権を握ってしまい、意見はあるのに傍観者に甘んじなければならない生徒も出てきます。

対話は「対面」で行うのが本来の姿でしょうが、デジタルデバイスを使えば、リモートでも十分に可能です。

折しも、首都圏の一都三県では緊急事態宣言が出される見込みで、「感染状況に応じて対面での指導と家庭でのオンライン学習の配分を変更するなどの対応」が求められる可能性がありますので、昨年夏までに蓄積したノウハウを改めて持ち出してくる必要も出てきそうです。

以下は、昨年春の緊急事態宣言下での臨時休校を受けて起こした拙稿です。お時間の許すときにご高覧いただければ幸甚に存じます。

 ■ 対面以外の環境で実現する対話的な学び
 ■ リモート学習で「答えが一つに決まらない問題」を扱う

また、臨時休校が解除された後に得られたデータをもとに考えるところをまとめたのが以下の拙稿です。何かのご参考になるかも…。

 ■ 臨時休校のリモート指導がきっかけで授業改善が加速?
 ■ 遠隔授業のデータから考える対面の良さを生かすポイント
 ■ 新しい生活様式のもとでの学習指導(まとめページ)



追記:

ICT教育整備の課題と問題点として、地域格差の問題、意識格差の問題、ITリテラシーの格差などが上がることが多いと思いますが、現場を預かる先生方が優先すべきは「活動の配列/授業デザイン」をしっかりとした学力観のもとで考えることだと思います。

ここがぐらついては、授業を各パーツ(=学習活動)をどんな道具を使って形にするかの議論も空虚なものになるように思えてなりません。

ICTを使って何をやるかではなく、教室の学びをどう構成するかを、授業を通して何を身につけさせるかを考えるところまで立ち戻れば、技術の進歩で機能もバリエーションも格段に向上した道具も、より良く使える(役立てられる)はずです。

■関連記事:
  1. コミュニケーション・ツールとしてのICT
  2. 学習内容が同じでもアプローチによって学びの質は異なる
  3. 限られた授業時間を有効に使う
  4. 教室でしかできない学びを充実~問いを軸に授業を設計


    1. 教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一