対話によって学びはどこまで深まったか

主体的、対話的な深い学びを構成する要素のうち、主体性を持った学びに欠かせない【学習方策】と【目的意識】につき前々稿前稿でデータ解析の結果に基づいて考察を行いましたが、本稿では「対話的な深い学び」にフォーカスしてみたいと思います。

なお、主体的、対話的な深い学びについては、拙稿「主体的・対話的で深い学びの実現に向けて(全3編)」でも考えるところをまとめておりますので、お時間の許すときにご高覧をいただければ光栄に存じます。


❏ 学習効果を決める、学習方策、対話協働、活用機会

別掲の質問設計による授業評価アンケートの回答データを解析してみると、【学習効果】への寄与度(重回帰分析で算出した偏回帰係数のt値で推定)のトップには、【学習方策】【対話協働】【活用機会】の3項目が大差なく並ぶのが通例です。

学習効果】(=目的変数)
  授業を通し、学力や技能の向上、自分の進歩が実感できる。
学習方策
  私は、この科目の学び方や取り組み方が身についたと思う。
対話協働
  話し合いなどの協働で、気づきや学びの深まりが得られる。
活用機会
  習ったことをもとに考える機会が、課題などで整っている。

回答は、すべて{とてもそう思う~まったく思わない}の5択とし、それぞれ4点~0点を割り当てて得点に換算しています。

正しい学び方を身につけていなければ、いくら頑張ってみたところで学力の向上は遅々としたものになるでしょうし、獲得した知識を活用する機会がなければ、学んだことによって自分にできることが新たに増えたこと(=コンピテンシーの増大)を実感するすべがありません。

協働で課題解決に取り組む中での対話は、生徒同士の経験や知識、発想を交換することによる集団知の活用で課題解決力を大きく膨らませるとともに、その場での学びもより大きなものにしますし、対話の中での気づきは、見落としを埋めたり、発想を膨らませる作用を持ち、その場に参加するすべての生徒の学びをより深いものにしていきます。


❏ 対話協働の充実には、適切な課題が不可欠

話し合いなどの協働で、気づきや学びの深まりが得られる授業の実現に寄与する要素を特定するために、【対話協働】を目的変数に、難易度と学習効果の2つを除く、他の7項目を説明変数とする重回帰分析を行ってみたところ、寄与度のトップに躍り出たのは【活用機会】でした。

課題などを通して、習ったことをもとに考える(=獲得した知識を課題解決に活用する)機会を整えることと、話し合いなどの協働場面を作り出すこととはそれぞれ独立したことであり、どちらか一方だけを実現することも理屈の上では十分に可能なはずです。

しかしながら、如上の分析結果は、知識活用の機会を作ることが対話と協働による学びの深まりを大きくすることを示唆しています。実際、両者の間には、0.578~0.602(95%信頼区間:生徒の回答から直接算出)という高相関が観察できます。

両者の結び付きを説明するには、「協働で解決すべき課題/答えを導くべき問いが与えられないことには、対話は自己目的化し、深い学びに結び付く気づきや発想の交換は生まれない」と考えるのが好適でしょう。

下表が示す通り、【活用機会】と【対話協働】への回答はかなりの確度で一致しています。

活用機会と対話協働table.png
また、【活用機会】でどの回答を選んだかでデータを分けて、それぞれの【対話協働】の換算得点平均で作成した折れ線グラフ(マーカーが平均値、上下に伸びる腕の長さが標準偏差)を見ても、グラフの傾きはかなり大きく、形状もほぼ直線です。

活用機会と対話協働LG.png

❏ 対話協働の充実には、適切な課題が不可欠

上記の重回帰分析の決定係数(修正R2)は、0.43とさして大きなものではなく、「対話協働の場の創出」は授業をデザインするときに独立性の高い事柄であるのは間違いありませんが、その場を教室内に作り出しても、適切な課題がセットされていないと十分な効果は得られないというのが、ここでの結論です。

同様の分析は、以前に起こした以下の拙稿(別のデータを使用)でも行いましたが、導かれた結果は同じです。

 ■ 活動性と学びの成果を繋ぐ鍵~課題を通じた目標理解

なお、【対話協働】への寄与度の第2位と第3位は、Ⅳ目標理解とⅢ理解の確認です。寄与度の割合を円グラフにすると下図の通りです。

対話協働の成立要件.png

授業を通して何を目指しているのか、どう取り組むべきなのかを示さなければ、対話協働に臨むにも戸惑いが先行するでしょうし、そこまでの理解を確かめなければ、対話に参加する準備も整わないはずです。

全員の準備が整わなければ、その科目を得意とする生徒の独壇場になる可能性が高そうです。準備不足で臨んだ他の生徒は出番もなく、貴重な授業時間をフリーライダーか傍観者として過ごすことになりかねません。学習活動に参画してこそ獲得が期待される能力・資質も、さして身に付かないままで終わってしまうのではないでしょうか。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一