学びに向かう力/主体的な学習姿勢をどう評価するか

新課程への移行を目前に、評価に対する関心が高まってきています。特に、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」と並んで『育成を目指す資質・能力の三つの柱』の一角を占める「学びに向かう力、人間性等」(評価の観点では「主体的に学習に取り組む態度」)についてはとまどいが先行する中で様々な議論がなされています。

高大接続答申の記述では「主体性・多様性・協働性」、新学習指導要領では「学びに向かう力・人間性等」、さらにその作成過程でのベースになった21世紀型能力では「実践力」と微妙に違う表現が与えられていることも、現場の混乱の一因のようにも思われます。

高大接続改革答申新学習指導要領21世紀型能力
基礎的な知識・技能 
思考力・判断力・表現力  
主体性・多様性・協働性  
生きて働く「知識・技能」
思考力・判断力・表現力 
学びに向かう力・人間性 
  基礎力
  思考力
  実践力
(「カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計する」より再掲)


❏ 探究と進路で作り上げる「社会との関り、生き方」

学びに向かう力に添え書きされる「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」は、生徒がそれぞれの進路を目指すときに文字にする「志望理由書」や「学修計画書」に現れるものでしょう。

日々の指導においては、進路希望を作る指導を進めながら、各フェイズで生徒が残したリフレクション・ログなどを材料に、好適な記述の発現度数や、以前の記述との変化(進歩)の度合いなどに着目して「学びに向かう力」の獲得状況を評価していくことになると思います。

進路意識を形成する舞台として重要な役割を持つであろう「総合的な探究の時間」でも、以下の拙稿で指摘させていただいたことを常に念頭に置かないと、学びに向かう力を評価し、育むのは難しくなりそうです。


なお、21世紀型能力の【実践力】は、自律的活動、関係形成、持続可能な社会づくりといった要素で構成され、以下をイメージしています。

生活や社会、環境の中に問題を見いだし、多様な他者と関係を築きながら答えを導き、自分の人生と社会を切り開いて、健やかで豊かな未来を創る力

これらは、如上の「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」(新学習指導要領「学びに向かう力」の前半への補足)と大きく重なっているように思われます。

内容的には、単一教科の学習指導の場だけで多面的に総合的な評価ができるものではなく、進路指導と探究活動の一体的設計のもとで行われる指導機会ごとに、行動・発言を観察した結果や、生徒がポートフォリオに残すリフレクション・ログを判断材料に、どこまで成長を遂げているかを把握・評価すべきものと考えられます。

"学びに向かう力"の育成と評価に、教科担当者としてどう関わるか

学びに向かう力の評価には、各教科の学習指導の場で行う観察だけでは十分な材料が得られないとは言え、学級担任や学年団と連携して、その育成と評価に関わることが求められることは言うまでもありません。

各教科の指導に求められるのは、拙稿「情報を集めて編む作業で知識獲得の方法を学ぶ」でご紹介した「拡張型調べ学習」や、「探究から進路へのきっかけを作るプラス α の一問」を適切に用意することと、それらへの生徒の取り組みをしっかり観察した結果を記録し、学級担任や学年と共有することでしょう。

言うまでもありませんが、日々の授業の中で如上の課題や問いをきちんと(=意図的、計画的に)課そうとするなら、教科を挙げて「学びの拡張」まで考慮したカリキュラムの設計に取り組む必要があります。

また、担任/学年から生徒の進路意識に関する情報を得て、各生徒が目指しているものと実際の教室でのふるまいに不一致がないか教科担当者の目で注視しておくことも大切です。受験で使う科目のはずなのにどうも勉強に身が入っていないとなれば、生徒の内に何らかの変化が生じているかも。それに気づけるのは教室にいる教科の先生だけです。


❏ 各教科で評価すべきは、主体的に学習に取り組む態度

一方、評価の三観点のひとつに挙がる「主体的に学習に取り組む態度」は、各教科の日々の学習指導の中で正しい評価ができるはずです。

評価の結果は評定にも算入されますので、評価結果に対して十分な説明責任を果たせるよう、明確な基準を定めておくこと、観察記録をしっかり残すことが求められます。

主体的な学びとは、「学びに対する目的意識(=学ぶことへの自分の理由)」と「自立的に学びを進められるだけの学習方策」の双方を生徒が備えたときにはじめて成立するものだと思います。

言われたことに素直に従っているだけでは、自分の理由で行動しているとは限りません。「提出物の期限遵守」を基準にしたところで、真面目さや勤勉さ(従順さ?)を測る指標にはなるかもしれませんが、主体的な学びを評価することはできませんよね。

主体的に学習に取り組む態度を身につけた生徒には、どんな行動が見られそうかを考えてみることが、評価観点の定立の第一歩です。

  1. 教科書や資料などに書かれていることをより深く理解しようと、自ら問いを立て、その答えを見つける方法を考え出そうと努力する姿が見られたとしたら、「主体的に学ぼうとしている」との評価を与えることに誰もが納得でしょう。

  2. わからないことがあったときに誰かに教えてもらうしか解決のすべを持たず、わからないまま立ち止まっているようでは、学びの自立には程遠い感じがしますが、参照型教材をぱっと開いて調べられるようになっているなら、だいぶ成長してきていると言えそうです。

  3. 調べ学習に取り組ませても、最初に見つけた資料を鵜呑みにして、それが事実に沿ったものか確かめる姿勢(=ファクトフルネス)が見て取れないようでは困りますよね。巨人の肩に乗ることの大切さとその方法も知ってもらわなければなりません。

  4. 解法を教わっていない(あるいは解法が未確立の)問題にも、「習っていないのでわかりません」と開き直るのではなく、どうしたら答えに近づけるかを自力で考えたり周囲と話し合ってみたりするようなら、主体性の獲得はかなり進んできたはずです。


❏ 評価を行う準備~観点別の評価規準の書き出し

こうした、「主体的な学びの姿勢」を獲得したときに生徒がとると思われる行動を、生徒を主語にしたセンテンスで評価規準を書き出しておくことは、到達目標を検証可能な形で規定することにもなります。

評価規準を示すことで、「主体的に学習に取り組む態度」とは何を指すのか、具体的なイメージを伝えることができます。伝える/共有すべき相手は一緒には指導にあたる周囲の先生方と、教えている生徒です。

検証可能な(=生徒の行動をセンテンスで書き出した)到達目標を教員間で共有すれば評価に生じるブレは小さく抑えられます。指導の目線を合わせるにも、教員間での到達目標/評価規準の共有は欠かせません。

また、生徒との間でも、何を目指して指導がなされているかをしっかりと意志共有してくことは、個々の指導に込めた先生方の意図をより良く理解する上でも欠かせませんし、生徒自身による自己評価や振り返りにも明確な基準を持たせることができるはずです。


❏ 生徒が自らの取り組みと成果を評価できてこそ

生徒が自分の学びを振り返り、より良いパフォーマンスのために何をすべきかを認識したら(=次に向けた課題形成ができたら)、それだけでも主体的に学びに向かう姿勢は強化されるはずです。

評価するのは学習者としての成長を促すためであり、先生が生徒に正しい点数をつけるだけでは評価の目的を達したことになりません。生徒自身が自らの取り組みとパフォーマンスを評価できるようになってこそ、学習者としての自立に向かえるのではないでしょうか。

そうした状態に生徒を導くこともまた、先生方の大切なお仕事です。


なお、センテンスに表現されたことを過不足なく満たしていればA評価となるでしょうし、届かずとも近い状態を記述した規準を満たしていたらB評価、まだまだ遠いならC評価、到達目標を超えた好適な行動を見せてくれたらS評価。評価結果の分布に生じた変化は、先生方の指導がもたらした成果ということになります。

初期に起こした評価規準は、使いながらブラッシュアップしていく必要があります。規準に照らした結果と先生方の見立てや生徒の自己認識が乖離する箇所は、両者が一致するよう文言を修正していきましょう。


❏ 正しい評価のために、活動させて観察の機会を作る

こうした評価を行おうとするなら、生徒に活動させて観察の機会を確保することが最初の課題です。生徒が黙って先生の講義を聞いているだけでは主体的に学習に取り組んでいるかどうか評価しようがありません。活動させてこそ観察が可能になり、その結果を用いて評価ができます。

各教科の学習内容によって、授業内外に発現する生徒の行動は異なりますし、先生方が授業内にどのような学習活動を配置するかで観察できるものも大きく違ってきます。

別稿「カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計する」で書いた通り、各単元の授業は、「学習内容(=各単元で学ぶこと)」とそれらを学ぶ中で「獲得を図る能力・資質」のマトリクスを想定し、セルの一つひとつにどのような活動を配列するかでデザインする必要があります。

学習内容と能力資質のマトリクス.pngまた、授業やカリキュラムの設計には、確かな学力を獲得させるための「学習活動の適切な配列」という観点もしっかり持つようにしたいところです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一