声に出して教科書を読むことの効能

ICTの導入が進む中で、個々の機器も技術の進歩でどんどん使い勝手が良くなっています。道具は上手に使えば、余計なところで浪費していたエネルギー(時間や手間)を目的に直結するところに集中して使えるようになるだけに、使い方を工夫し、積極的に活用したいところです。

その一方、手を使って板書や資料を書き写すことや声に出して教科書を読むといった、特別な道具もいらなければ、やり方を改めて学ぶ必要もない「クラシカル」な方法にも、現代でもなお侮れない小さからぬ効能があるように感じています。

目で見て手を使って書き出すことの効能については別稿に譲りますが、教科書に書かれていることを声に出して読ませることがもたらす効果について、ポジティブな視点から改めて考えてみたいと思います。


❏ 理解力/読解力の獲得には「読む」という活動を

教科書をきちんと読ませることの必要性は、このブログでも繰り返しお伝えしてきた通りです。

単元内容を学ばせる/知識を獲得させ理解を形成するだけなら、先生の解説を聞かせたり、教材動画を視聴させたりすることで、当座の目的は達することができると思います。

しかしながら、「テクストを読んで、そこに書かれていることを正しく理解する力」(読解力/学習力)を養う機会を逃しては、その後の学びを生徒が自力で進めていく上で大きな支障が残ります。

教科書をろくに読めていない生徒が一定数いるという研究が、教育現場に衝撃を与えたのは強く記憶に残っています。あれからだいぶ時間が経ちましたが、事態が大きく改善したとは言い切れないように感じます。

各単元に固有の知識を学ばせることを「手段」に、読解力や学習力を高めるという「目的」に近づこうとするなら、「教科書や資料を生徒自身が読む」という活動を学習の中に配列する必要があるはずです。

 ■ 確かな学力を獲得させるための「学習活動の適切な配列」


❏ 声に出すことで、一字一句に意識を向ける

国語や英語といった言語系の教科以外では、音読という活動にあまりなじみがないかもしれませんが、あらゆる教科の学びにおいて、教科書の音読にはコスト(活動に投じる時間)に見合った効果があります。

タイトルにあるように「声に出して」という条件を加える理由のひとつは、読み飛ばしをさせないことにあります。黙読と違って、音声化する以上、一字一句たりとも飛ばすことはできません。

新しい単元を学ぶとき、教科書の学習範囲をひと通り「音読」させることで、単元内容のすべてに少なくとも一度は触れたことになります。

これだけでは到底、十分な理解や記憶への定着は図れませんが、ひと通りの内容に触れたという状態が「次の学習活動の土台」になります。


❏ 音読は、次の学習活動につなぐ「準備」

音読を終えた後に、先生から一問一答式/求答式の問いを投げかけ、読んだ範囲から答えを拾い上げさせるタスクを課せば、重要なポイントの拾い上げもスムーズです。

先に一度読んでいるだけに、「このへんにあったな」という当たりがつくため、生徒のレスポンスは格段にあがり、音読に割いた時間はあっという間に取り返せます。

教科書にマーカーを引かせるにしても、先生が指定した箇所に色を塗るだけでは、塗り絵となんら変わりませんが、「問われて答えを探して」というワンステップを挟むぶんだけ、内容への関わりも深まります。

一問一答式の代わりに、空所補充式のプリントで重要な用語や説明文を拾い上げさせるというバリエーションもありますが、教科書の音読なしにプリントの穴埋めをさせると、ピックアップする箇所以外は読み飛ばされ、学びは穴だらけのつぎはぎになってしまいます。

もしかしたら、導入フェイズで教科書の学習範囲の音読を行い、一問一答でポイントを押さえ、復習でプリントの穴埋めを行わせるという一連の作業だけでも、各単元に固有の知識・理解は、ある程度のところまでは押さえることができるのではないでしょうか。

如上のタスクには一定の時間が取られますが、こうした準備(特に音読と一問一答まで)を経ないと、協働で解決策を考えるべき課題を与えてグループワークに挑ませたところで、土台の知識を欠く、浅い対話しか実現しないのではないでしょうか。


❏ 音読に始まる一連の学習活動をどう配列するか

教科書の音読は、ある程度まで習慣化したら予習のタスクへの切り替えもできます。始業と同時に如上の「一問一答」が始まるスタイルが確立すれば、生徒は音読をさぼると自分が困ることを学習します。

当然ながら、復習フェイズで行う「プリント穴埋め」は、授業を終えた後に自宅や自習室でやらせれば良いだけの話です。

音読も穴埋めも、高度な思考を求めるものではなく、どの生徒にとっても履行可能なもの。時間だってそれほどかかりません。無理を強いずに一定の家庭学習を習慣化させるには有効なやり方ではないでしょうか。

教室での対面での学びの場では、音読と一問一答で携えた必要最小限の知識を駆使して、協働で/対話の中で課題の解決に挑んだり、先生が用意した新たな資料を読んで(=テクストを介した対話)さらに深く考えたりといった、「対話的で深い学び」に挑ませるべきだと思います。

言うまでもありませんが、対話の中で蓄えた気づきを携えて、課題に立ち戻り、答えをしっかり仕上げる工程は、生徒が個々に取り組むべきもの。これもまた教室を離れたところでやらせるべきことです。

 ■ 教室でしかできない学びを充実~問いを軸に授業を設計
 ■ 答えを仕上げる中で学びは深まる



声に出して教科書を読むという一見単純に見える作業も、それ自体に高い効能がある上に、授業デザインの最適化に繋がっていく可能性を考えると、改めてその重要性を考え直してみても良いように思います。

教科書1ページあたり800字として1冊240ページなら、合計で20万字程度。2単位科目で年間の授業のうち60コマを教科書学習に当てられるとすると、1時間の授業で読むべきは3,200字という計算になります。

アナウンサーが原稿を読み上げるスピードが300字/分程度ですので、単純計算では授業1回ごとに10分強を確保すれば良いことになります。

これを端折ることで、後々の学習活動でもたついたり、学びに穴と綻びが残ることを考えれば、やってみる価値は十分にありますし、前述の通り、生徒の側で音読の習慣が形成されれば、その10分すら、教室で対面で行う学びの場から他に移すこともできるはずです。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一