探究活動やPBLを通して涵養すべき統計スキル

令和7年度以降の大学入学共通テストのサンプル問題が大学入試センターのホームページに公開されました。(こちらをご参照下さい。)

公開されたサンプル問題は、地理総合、歴史総合、公民、情報の4科目ですが、これからの教室において「どのような学ばせ方」が求められるようになるかは、これらの科目に閉じた話ではありません。他教科の先生方も、お時間を見つけて一度は目を通しておくべきかと思います。

 ■ 出題研究を通して"問い方"を学ぶ
 ■ 学びを深める、問いの立て方とその使い方

サンプル問題を見ると、どの先生もご指導に当たる機会がある「総合的な探究の時間」のみならず、自教科での学ばせ方/取り組ませ方を考えるときに念頭に置くべきことに思い至るところが少なくありません。

生徒に取り組ませる学習活動の在り方の参考になるとともに、総合的な探究の時間や各教科の学びの中で、これまで以上に統計学の知識をしっかり活用させましょうとのメッセージが見て取れます。


❏ 他教科まで出題研究の対象を広げ「学ばせ方」を学ぶ

大学入学共通テストは、試行問題から一貫し、「何を学んで身につけて欲しいか」に加え、「どう学ぶことによって、どんな資質や能力、学び方を獲得して欲しいか」について強いメッセージを送り続けています。

新学習指導要領では「どのように学ぶか」も重視している以上、当然です。キーワードは『「主体的・対話的で深い学び」の視点』ですね。

試行問題も含めて、大学入学共通テストの問題には、生徒が学習に取り組む場面を「舞台」に設定した出題がかなり多く見られることは、既に広く知られているところだと思います。

加えて、現況の理解や課題の解決にデータを活用するシーンが多く取り込まれているのも、各教科の出題/サンプルに共通するところです。

これらは、特定の教科・科目に限定されたものではありません。ご担当以外の教科の問題まで広く点検の範囲を広げてみると、どんな学ばせ方が求められているのか、より良く分かると思います。「出題のねらい」にも目を通すと理解がさらに深まるように感じます。


❏ 探究活動へのアプローチやそこで使う知識・技能

令和7年度(2025年度)以降のサンプル問題にひと通り目を通してみましたが、たとえば、以下のようなところには着目が必要かと思います。

サンプル問題「公共」第3問
    場面設定:
     SDGsから課題を選び、グループで探究学習
    測定しようとしている力:
  • 複数の資料を比較し、分類して関係付けながら,事実を基に課題を見いだす力
  • 課題解決に向けて、様々な立場からの主張を協働して考察し、妥当性や効果、実現可能性などを指標にして、論拠を基に構想する力
  • 補足:上記に加えて、初見の指標についての説明文を読み、その意味するところを理解する「学習型問題」の要素も含まれています。

なお、別問題(第1問、問3)は、食品ロス問題の解決方法についての合意形成を図る場面を設定し、様々な立場から導き出される答えやその根拠を考えさせる「正解が一つに決まらない問題」です。

サンプル問題「情報」第3問
    場面設定:
     データを整理、加工し、実践的に活用する場面
     サッカー部のマネージャーがワールドカップのデータを解析
    活きて働いているか試されている知識・技能:
  • データに含まれる傾向を見いだすために複数の散布図から項目間の相関を読み取ること
  • 回帰直線から項目の値を予測したり残差について考えること
  • 基本統計量を読み取り、データに含まれる傾向を見いだし、データの散らばりから傾向を読み取ること

改めて申し上げるまでもないかと思いますが、ここで試されているのはいずれも、「総合的な探究の時間」などで生徒が取り組む探究活動でのアプローチやそこで用いることになる知識や技能が含まれています。

各教科での学び(とりわけ課題解決型学習[PBL])で使わせる中で生徒に獲得を図らせている知識・技能には、「生きて働く場面」をきちんと与えて、より深く学ばせたり、定着・習熟を図ったりする必要がありますが、その場の一つは言うまでもなく総合的な探究の時間です。

総合的な探究の時間での学びは、生徒一人ひとりの進路意識形成にも直結しますので、決して軽んじることはできません。

 ■ 学習指導、進路指導、探究活動で作るスパイラル

数学や情報で学習させた統計的な「データの扱い方」をきちんと活用させるかどうかが、総合的な探究の時間での学びの質と量、深さと広さを大きく左右するのは、容易に想像できるところです。

ご指導に当たられる先生方も、教員免許を持つ教科が数学や情報でなかったとしても、ある程度のところまでは統計に関心を持ち、生徒が数学や情報の教科書で学んでいることを十分に知っておく必要があるのではないでしょうか。(cf. 統計学が最強の学問である - 西内 啓


❏ 自分事としての課題に、データを用いてアプローチ

サンプル問題が「場面」に設定しているのは、生徒が自分事として向き合う課題に解決策を探す/作り出すプロセスです。1つめではSDGsへのチャレンジ、2つめの例ではサッカー部のマネージャーがチームの勝利に貢献しようとする場面と、それぞれ趣は違いますが…。

結論ありきではなく、データにしっかり向き合い、傾向を把握しつつ、仮説を立てながらデータを活用して検証するというプロセスをきちんと踏んでいる点も双方に共通しているところです。

様々な問題に取り囲まれて生きていく中で、データを正しく活用し問題を正しく理解することや、根拠のある解決策を考え出していくことは、危険を遠ざけ、建設的に日々を生きていくために不可欠です。

統計について学ぶことに対し、生徒はスタート時点では「学ぶことへの自分の理由」を持っていないかもしれません。与えられた時間割の中で教科書に載っていることを順番に学んでいくだけという受け身の姿勢では目的意識も希薄なまま、学びも深いものになりません。

しかしながら、如上の「学習場面」を日々の学校生活の中で経験することを通して、統計の知識を持ち、しっかり活用することでより良い答えを導き出せ、説得力のある提案を作り出せることを体験していく中で、統計的なアプローチへの習熟の必要性も実感してくれると思います。


❏ 単元内容を学ばせながら、統計スキルに習熟させる

解内在型(正解がわかっており、解法も既に確立された問題)の課題にだけ対処する場合には、既存の知識を誰か/何かを介して獲得すれば、解決に必要な道具立てを整えることができます。

しかしながら、これからの社会を生き抜いていかなければならない、今の生徒が学んでいくべきは正解も解法も未確立の問題への対処法です。

問題の解決には、解決に向けた道筋を考える前に、状況を把握するところから始めなければなりません。そこで頼るのはデータ。的確に情報を集め、整理・分析して、解決への道筋を考えるのに、情報リテラシーや統計学の知識が不可欠であることに疑念の余地はなさそうです。

各教科の学習指導においても、各単元の内容を学ぶことを手段に、情報リテラシーや統計スキルを獲得させていくという発想を持ちましょう。

能力・資質の獲得には、相応の「学習活動」が必要であり、単元ごとの学習内容を縦軸に、獲得を図る能力・資質を横軸においたマトリクスを想定し、それぞれの交点に適切な学習活動を配列していかないと、新課程が求める形に教育課程/指導計画はまとまらないはずです。

新課程に備え、改めて考えるカリキュラム・マネジメント
学習内容と能力資質のマトリクス.png


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一