全教科でコミットすべき能力・資質の涵養

新課程の土台になった「21世紀型能力」で基礎力を構成する言語、数量、情報の各スキルは、すべての教科を学ぶ上での土台(=基礎)であると同時に、すべての教科の学び(教科固有の知識・理解を獲得する過程)を手段として、涵養を図るべきものだと思います。

21世紀型能力の中核をなすのは「思考力」ですが、その主要な構成要素の一つである「問題解決・発見力・創造力」では、「問題」を見つけられないことがそもそもの問題。その「根っこの問題」は、単元内容を丁寧に教えて理解させるだけでは解消できないのではないでしょうか。

単元内容の学習を手段に獲得を図る能力資質.png

❏ 基礎力を使う場、鍛える場はどの教科の学びにも

言語、数量、情報を扱う機会は、どの教科の学びの中でも探せばいくらでも見つけられるはずです。

それぞれの教科が扱う「世界」を理解するにも、理解をもとに考えるにも、更にはその結果を表現するにも、様々な記号(言語、数量、情報)を用いることは不可避。学びの過程そのものが、各記号を扱うスキルを発揮する/獲得する機会の連鎖と言えるのではないでしょうか。

そうした機会を逃さずに、生徒がそれまでに獲得していたスキルをどれだけ駆使させられるか、現状で備えるスキルの不足を補う工夫と努力をどこまで重ねさせられるかが、基礎力獲得の成否を分けます。

使う場を与えなければ、鍛えることも評価することもできません。

 ■ 教科書をきちんと読ませる
 ■ 探究活動やPBLを通して涵養すべき統計スキル

教科書や資料も読ませない、集めた情報を整理し、傾向を把握したりその背後にあるメカニズムについて考えさせたりすることもない、考えたことを言語化したり発表したりすることもない、というのでは、生徒がスキルを発揮/獲得する機会を与えていないということです。

各教科の学びの中で、ICTを活用することも、その活用力や情報リテラシー(情報スキル)を向上させます。

どんな学ばせ方をするかで、生徒が身につけられる基礎力(=情報、数量、情報の各スキル)は違ったものになるということです。

先生が丁寧に説明して理解させるだけ、生徒が答えや方法を考える前に先生が正解を示してしまうのでは、せっかくの機会を肩代わりする形で奪っていることになることを忘れないようにしたいものです。

ちなみに、教育課程の編成に関する基礎的研究 報告書5(p.27)では基礎力について以下のように説明しています。

思考力を支えるのが、「基礎力」、すなわち、「言語、数、情報(ICT)を目的に応じて道具として使いこなすスキル」である。技術革新を背景にICT 化が著しく進む今日において、社会に効果的に参加するためには、読み書き計算などの基礎的な知識・技能とともに、情報のスキルが不可欠である。情報スキルは、計算や記憶の代行など、読み書き計算の不足を補償する可能性すらある。その支援力の大きさを使って、思考力を助けるのが、この基礎力の一つの役割と考えることもできる。


❏ 問いを立てること、問題を見つけること

冒頭でも書きましたが、「問題」を見つけられないことが先ずは大きな問題だと思います。

教科書に書かれていることは、事実であることが確かめられてきたことでしょうが、それでも「なぜ、そう言えるのか」「どうやって判明したのか」「別の条件でも同じか」といった問いは立ててみたいところ。

資料やデータに触れても「ふーん、そうなんだ」では、解決すべき問題が転がっていることにすら気づきません。

たとえ答えが一つに決まる問題でも、正解に至るルートはいくつもあるかも。与えられた模範解答を覚えるだけの勉強に終始する生徒と、他にアプローチはないかを考え、より効率的な方法を見つけ出そうとする生徒とでは、社会に出たときの「生きる力」はだいぶ違いそうです。

小説を読むときにだって、なぜ作者はこの表現を選んだのか、何を描こうとしているのかを考える(=自らに問う)ことなしに、あらすじだけ追っても、面白くもなければ、表現力も身につかないように思います。

あらゆる教科・科目において、生徒に「問いを立てること」「問題を見つけること」を様々な場面で繰り返し求めていくことで、そうした力を養っていけるのではないでしょうか。

 ■ 生徒に問いを立てさせる
 ■ 質問を引き出す(前・後編)

なお、前掲の報告書では、「思考力」は次のように説明されています。

21世紀型能力の中核に、「一人ひとりが自ら学び判断し自分の考えを持って、他者と話し合い、考えを比較吟味して統合し、よりよい解や新しい知識を創り出し、さらに次の問いを見つける力」としての「思考力」を位置づける。「思考力」は、問題の解決や発見、アイデアの生成に関わる問題解決・発見力・創造力、その過程で発揮され続ける論理的・批判的思考力、自分の問題の解き方や学び方を振り返るメタ認知、そこから次に学ぶべきことを探す適応的学習力等から構成される。


❏ 様々な学びの場面で使わせてこそ、応用の効く能力に

言語スキルは国語や英語、数量スキルは数学、情報スキルは情報といった具合に、基礎力を構成する各スキルを特定の教科の授業だけで涵養するものと狭く考えては、スキルを発揮するためのタスクも単調なものになり、広く応用の効く「能力」に高めていくのは難しいはずです。

思考力もまた、特定の教科に固有のものではなく、ある教科の学びの中で身につけたものは、他教科の学びでも、教室を離れたあらゆる生活の場面でも応用されるでしょうし、そうした機会を通して、より汎用性の高い、効果的に活用できる力に昇華していくのだと思います。

別稿「カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計する」でも書きましたが、各教科に固有の学習内容(コンテンツ)を学ばせることを手段に、基礎力、思考力、実践力といったコンピテンシーを形成していくという発想で、教育課程や指導計画を考えるべきということです。

生徒に各能力の発揮を求めるような学習活動を用意し、それに取り組む生徒の様子を注意深く観察していれば、現状で何が足りないか見極めもつき、指導計画を立案する上での重要な判断材料が得られるはず。まずは、活動させて観察の機会を確保しましょう。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一