先輩たちの研究成果に対して立てる「問い」

探究活動に取り組ませるとき、最も重要でありながら、上手くいかないことが多いのが「研究テーマの設定」「問いの立て方」だと思います。

導入指導で探究活動が目的とするところをしっかり理解させておかないと、探究の手順をきちんと踏まえることもできず、自分と社会の接点を探すことにもつながらない、興味本位に走った「趣味・道楽の延長」を抜け出せていないテーマを設けてしまう生徒も出てきます。

探究を通して答えを見つけるべき「問い」(リサーチ・クエスチョン)もしっかり立てられず、ようやく絞り出したのも「最初に答えありき」で、「新たな知を作り出す要素」を持たなかったりします。

探究活動では、研究の対象となり得る事象を選び出し、そこに直接的に問いを立てるのが一般的ですが、探究活動の準備フェイズで先行研究や関連文献を読むはず。そこで打ち出されている結論や仮説に対して別の考え方を提示するというアプローチもあるのではないでしょうか。

事象をより良く説明し得る仮説を立て、その検証方法を考えることだって立派な探究。実際の研究者の営みの多くもこちらに入るはずです。


❏ 準備もなしにはテーマも決まらず、問いも立たない

探究活動というと、生徒は(ときにご指導にあたる先生方も)何か研究の対象となりうる事象を探し出し、それに対して直接的に問いを立てるものと思い込んでいる節があるように思えます。

世界中のこれだけ多くの人が、長い年月にわたり、物事の道理を明らかにする/問題に解決策を与えることに取り組んできた以上、だれも手をつけていないテーマなどそうそうあるはずもなく、高校生が限られた活動期間の中で新しい問いを立てることが困難を極めるのは当然のこと。

面白いもの、独創的なものを目指そうと欲目をかいたら、事はますます難しくなるばかりだと思います。

自分が興味や関心を持てることを探させるにも、単に頭の中であれこれと思索を重ねさせるだけでなく、別稿で紹介したような手順を踏ませていくことが重要ですが、何かを探り当てた時点ですぐに「問い」を立てさせようとすると、活動はまたそこから迷走を始めます。

ここでやらせるべきは、「先行研究」に当ることではないでしょうか。

論文検索エンジンなどを活用してちょっと調べてみるだけでも、自分が興味・関心を見出した事柄に対してこれまでどんな研究がなされてきたか、どんな切り口があり得るのかを垣間見ることができ、その中で頭に思い浮かんだ疑問を起点に「自分の問い」が立てられるかも。

高校生が専門家による研究の向こうを張るのは無理な話ですが、切り口やアプローチの発想を得るには好適な活動ですし、巨人の肩の上を目指して少しでも(すねや腰あたりまで?)登ってみることが大事です。

また、自校/全国の先輩たちが「探究活動」で残したもの(論文やポスター)にも、ある程度は目を通すようにさせたいもの。

自分が取り組もうとしていることに先輩たちがどう取り組み、どんな結論を得たかを知った上で進める探究活動と、そんな準備なしに暗中模索でさまようだけのときとでは、得られるものは大きく違ってきます。


❏ 先輩たちが作った答えは、反証を試みる好適な対象

如上の「準備」を進める中で、生徒は「自分が興味を持ったところはすでに研究し尽くされており、自分が新たに切り開くところは残っていない」と感じるかもしれませんが、同時に、先輩たちが残した研究成果に対する疑問も生じているのではないでしょうか。

  1. 先輩のAさんは、こんな実験でデータを取っていたけど、ここを見落としているのではないか。

  2. Bさんは、こういう結論だけど何だか変。こういう仮説を立てたらもっと上手く説明できるような気がする。

  3. CさんとDさんの言っていることは何だか矛盾している感じ。どこで矛盾が生じたか調べてみよう。

こんな疑問や問題意識が頭の中に浮かんで来たら、探究テーマを設定したり、リサーチ・クエスチョンを立てたりする、少し手前まで来ているのだと思います。

漠然と浮かんだ疑問を整理していく中で、「自分が探究活動を通して確かめるべきこと」が明らかになっていくはずです。

1. なら、見落としていると感じた要素を加えたときと加えなかったときの実験結果を比べれば、「○○に対して△△はどんな影響を及ぼすか」であったり、「〇〇に影響を与える要素は何か」といった問いへの答えを見つけ出せるかもしれません。

2. なら、そこで立てた仮説そのものがリサーチ・クエスチョンになりそうですし、それを確かめる/検証するための実験や調査を考えて、実行してみれば、十分に立派な探究活動ができます。結果次第では後輩学年に新たな「問い」を提供することもありそうです。

3. の場合、両者の間の矛盾を整理・具体化した上で、その矛盾を解消し得る新たな仮説を立て、検証していくことになるはずです。

自校の先輩が残した具体的な成果物だけでも、生徒が探究テーマを探してリサーチ・クエスチョンを立てるときの「資料」としては十分なものでしょうが、先生方がご自身/学校間のネットワークを利用して、他校の生徒の探究論文集などを集めておけば、資料はさらに充実します。

図書室にコーナーを設けて、生徒がいつでも閲覧できるようにしておくのも悪くありません。「あれっ?」と思ったときに、書架をひと巡りしてみれば、自分の疑問を解消してくれるヒントにも出会えそうです。



現代の社会で「当然/普通/標準」と考えられている行為や規範だって人々が共同生活を送る上で経験的に導き出されてきた「仮説」の集合です。その合理性を疑ってみて、より良い解(=より良い生き方)がないかを考えることは「先行研究の結論に対して問いを立てる」のと本質的に変わらないのではないでしょうか。

誰も解を導こうとしたこともないところを闇雲に掘り返すのは、ある種のギャンブル。高校生が挑む探究活動では「うさぎ一匹取れなかった」という事態も十分に予想されます。

既に導かれている解が本当に正しいのかを吟味し、より良い解の可能性を探ることに、言語、情報、数量の各スキルを発揮し、科学的な姿勢で取り組ませれば、探究活動を通して目指すところは実現できそうです。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一