複数テクストの比較で試す「読解力」

大学入試問題では、複数のテクストを取り上げた問題が見られるようになり、注目を集めています。今年の大学入学共通テストの国語でも小説の本文と併せて、当時の新聞に掲載された批評が資料として与えられ、両者を読み比べて答えを導く問題がありました。他教科の問題でもどのデータに当たるべきかを考えさせたりする設問が登場しています。


❏ 新課程が求める「学ばせ方」を実現するために

PISAの読解力定義には2018年度のテストから、「質と信ぴょう性を評価する」と「矛盾を見つけて対処する」という2つの要素が加わりましたが、日本の生徒の正答率が低かった問題には、この2つの要素を含むものが多く見られます。

言うまでもありませんが、「矛盾を見抜いて対処する」ような場面は、同一著者の同一文書の中では、基本的にはありえないはず。矛盾があるような文章は、公開する前にちゃんと推敲してね、と突っ込まれます。

新しい学力観の下で求められる「読解力」(その要素の一つが「矛盾を見抜き、対処すること」)を養おうとするなら、自ずと複数のテクストを用意して読み比べさせる必要があるということだと思います。

大学入学共通テストは、その出題を通じて、大学で学ぶことを希望する生徒に「どんな学力を身につけて欲しいか」を示すと同時に、先生方に対しては「どんな学び方をさせてきて欲しいか」を、具体的な学習場面を設定することで示しています。

複数テクストを併用する問題は、矛盾を見つけて対処する力を養うことを目的に生徒に取り組ませる学習活動の一つの形と言えそうです。

また、複数のテクストやデータを見比べて、矛盾するところを見つけた場合、自ずと双方のテクスト/データ(情報)の質や信ぴょう性を評価するところに立ち戻る必要も生じるため、情報スキルや数量スキルを育む機会も作り出せるのではないでしょうか。


❏ 比較対象となる別テクストをどうやって集めるか

こうした授業をデザインしようとするときに、テクストの一つは教科書や副教材に求めるとしても、対比することができる別の資料(テクストやデータ)を探す必要があります。

探す手間はできる限り小さく抑えたいところです。負担が過剰な状態では、頑張ってみても単発の取り組みが精一杯。3ヵ年/6ヵ年を通した継続的な指導は実現の見込みも立ちにくいはずです。

おそらくは、各教科書会社とも、そうした「対照資料」を積極的に用意してくれることと思いますが、先生が「ここぞ」と思う単元や学習項目でそのニーズがすべて満たされるとは限りません。ある程度は自力で探す必要も覚悟しておきたいところ。

各地の先生方が、後掲の通り、既にいろいろな工夫をされています。どんな取り組みがあるのかを知っておけば、好適な材料を集めていくときに「どこに網を張ればよいか」当たりがつくのではないでしょうか。

また、校外での教員研修や勉強会などで知り合った先生方とネットワークを作り、好適な材料をシェアする取り組みも一部では見られるようになってきました。

少なくとも、校内の同じ教科の先生方との間では、シェアを怠らず、好適な材料を埋もれさせないようにしたいところです。


❏ 参観させていただいた授業では…(実践のご様子)

以下は、ここ数年(去年から、コロナ禍で授業公開に足を運びにくくなっており、勉強にブレーキがかかりがちですが…)で拝見した授業での取り組みです。資料が手元に残っていないものもあり、記憶頼みで不正確なところもありますが、ご容赦ください。

  • 国語のある先生は、教科書に載っている作品とテーマが似ている別の作品を持ってきて、それぞれの登場人物の発言や態度の中に共通点と相違点を生徒に探させた上で、教科書の作品の登場人物の言動の背景にあるものを考えさせていました。お話を伺ったところ、同じ作家の別の作品の登場人物や、別の作家による似たような場面の描写の違いなどに着目させることのほか、教科書で既に学んだ作品との間で、観点を定めた比較を行わせるときもあるとのこと。

  • 公民科では、同じテーマを扱った複数紙の社説を材料にしていました。輸入自由化や関税引き下げに対しても、十勝と四日市では地域紙のとる立場も全く違うため、価値観の違いを知った上で落としどころをどこに見つけるか考える練習の場として好適とのことです。また、それぞれの新聞の主張が、どこまでエビデンスに基づいたものか、情報の信頼性を評価することにも取り組ませてみたそうですが、これはさすがに難儀したそうです。

  • 数学では、いわゆる「テクスト」を読む機会は少ないかと思いますが、ある先生は、大学入試問題正解や赤本、予備校の解答速報などから同じ問題の「解答と解説」を集めてきて、それらを志望校別入試対策講習などでの教材にしてみたそうです。ときには「答え」が違っていることもあって、そんな時はことのほか教室が盛り上がると仰っておられました。

  • 理科では、探究活動の入り口での「先行研究」の読み込みが、複数テクストを読み比べる絶好の機会になります。ある学校の先生方は探究活動の導入指導で、過年度の生徒が残した論文を材料にしているとのことです。同じテーマに興味を持つ生徒でグループを作り、そのテーマに関するもの/近いものを取り上げた先輩の論文を探させ、結論と研究アプローチの双方について、共通項の拾い出しと相違点がどこで生じているかを話し合わせているそうです。

  • 英語でも、同じテーマや問題を扱った文章を探してきて読み比べさせ、一方の筆者は他方の意見にどう答えるかを考えさせていた実践があります。複数のスピーチ(先輩学年の意見発表会の動画なども利用できます)を見せて、双方の優劣とそれを生んでいる理由を考えさせたりする活動もあります。また、英語版の観光案内サイトなども題材になり得ます。読みやすく書かれている上に、写真などもあって具体的なイメージが掴みやすく、土地の人々の生活、歴史、文化などへの言及もあるため、幅広い学びになるとのことでした。

どれも、多くの準備と日々の工夫の積み上げの中で実現しているご指導ですが、こうした素晴らしい取り組みの数々も、個々の先生の取り組みに閉じては、恩恵を受けられる生徒は一部に限られてしまいます。より大きなコミュニティで共有できれば、別の場所で学ぶ生徒にもより良い学びが届けられるはず。これからも引き続き、各地の現場をお訪ねし、勉強したことを改めてご報告させていただこうと思います。


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一