教科書内容の理解を「学びのゴール」としない

教科書や資料に書かれたことを正しく理解することは、いかなる場面においても大切なことであり、ないがしろにすることはできません。当然ながら、教科書をきちんと読ませることを通じて、書かれていることを自力で読んで理解する力もしっかり獲得させたいところです。

しかしながら、新しい学力観の下では、学びのゴールは「教科書や資料の内容を正しく理解すること」ではなく、そのさらに先に設定する必要があるのではないでしょうか。

理解したことをもとに考えた結果を表現する力が求められることはもちろん、書かれていることを鵜呑みにせず、問いを立てて確かめていく力や、複数のテクストの間の矛盾に対処したりする力を獲得させることが教室での学びに求められています。


❏ まずは、書かれていることを自力で読んで理解する

従来の学力観であれば、教科書などに書かれている各単元の学習内容を正しく理解し、知識として獲得できれば、学びのゴールに達したことになったでしょうが、新しい学力観の下では、知識・理解には「生きて働く」ことが求められます。

読んで理解したことをもとに考え、その結果に他者の理解と共感を得られる表現を与える力が、ますます重視されていることは、近年の入試の出題をみても強く実感できるところです。

高大接続改革を機に見かけることが多くなった「学習型問題」などは、その典型です。試験会場に臨むまでに受験生が獲得していた知識の量だけでは点差がつかず、その場で資料をどこまで理解でき、そこで得た知識をもとにどこまで考えられるかが合否をわけます。

日々の授業の中で、教科書や資料を自力で読んで理解することを求めていなければ、学習型問題が課している第1のハードル(問題文や資料を読んで理解できるか=大学進学後の学修の土台でもあります)すら飛び越えることはできないはず。

また、読んで理解したことを生きて働かせる(=所与の問題に答えを導くために活用する)ことができなければ、得点には繋がりません。

教科書内容を先生が先回りしてわかりやすく説明して理解させてしまうことや、正しく理解したことを以て学習目標の達成としてしまうことが如上の問題への対応力の獲得を邪魔するということです。


❏ 書かれていることに対して問いを立てる

教科書に記述されていることは、基本的には、事実であることが既に確かめられていることなので、ことさら疑ってみることなしに鵜呑みにしても実害はないでしょうが、日々の生活でそうした態度は危険です。

真偽が混在する情報に取り囲まれて生きていく中で、見聞きしたことを鵜呑みにしては、正しい選択を重ねる(=より良く生きる)のは難しくなるばかりではないでしょうか。

あらゆる機会を利用して、ものごとを一つひとつ確かめる姿勢を生徒に獲得させていきたいところ。各教科の学習指導であれば、教科書に書かれていることでも「なぜそう言えるのか」を考えさせるのは有益です。

裏付けとなるデータや資料を探させたり、確かめる方法を考えさせたりすることも、教室以外ではその機会は中々持てるものではありません。

各教科の授業で身につけさせたものは、総合的な探究の時間の中で活用されることで、さらに汎用性の高い「能力」に昇華していくはずです。

国語や英語で本文を読むときにも、「主人公はなぜこうしたのか」「作者は何の意図でこの表現を選択したのか」といった問いを立てて読むのと、ただ漫然と文章を追うときでは、理解も味わいの度合いもまったく違ったものになるのではないでしょうか。

 ■ 生徒に問いを立てさせる、(続編
 ■ 質問を引き出す~学びを深め、広げるために、(続編


❏ 複数のテクストに当たり、矛盾を見つけて対処する

PISA2018では、日本の生徒が「質と信ぴょう性を評価する」と「矛盾を見つけて対処する」を苦手にしている可能性が浮き彫りになりました。

教科書の内容を学び、そこに書かれていることをそのまま理解し、記憶するだけの学びを重ねていても、如上の力を養う機会を持てません。

大学入学共通テストでも、複数テクストを題材とする問題や、問題を捉えるのにどの資料に当たるべきかを問う問題などが登場しているのは、教室の中でもそうした学びの場を作って、矛盾を見つけ、それに対処する力を養ってほしいとの意図の現れです。

探究活動(総合的な探究の時間など)では、研究テーマを決めたり、リサーチクエスチョンを立てたりするフェイズで複数の先行研究に当たることになり、そこで様々なアプローチや結論を比較する練習ができますが、それだけでは能力向上を図る機会として十分とは思えません。

日々の教科学習指導の中でも、複数の資料やデータを用いた学びの場の創出に力を注ぐ必要があるのではないでしょうか。

 ■ PISAが測定する「読解力」
 ■ 複数テクストの比較で試す「読解力」



学びのゴールを「正しい理解」の先におく必要性について考えるところをまとめましたが、知識・理解の獲得が不十分であれば、問題解決・発見・想像、論理的・批判的・創造的思考、メタ認知・学び方の学びといった「思考力」の土台はぐらついたままです。

理解の形成や思考の深化の度合いをきちんと確かめ、その結果に基づく仕上げにきちんと取り組ませることや、課題解決を通して得たものをきちんと教科書に落とし込み、体系化を図る必要も忘れてはなりません。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一