学習内容の難しさと苦手意識

学習内容や課題の難易度が高まれば、その科目を苦手と感じる生徒が現れる/増えてくるのは想像に難くないところかと思います。「難しい、わからない、できない」という経験を繰り返すうちに、科目に対する自己効力感を徐々に弱め、やがては「苦手」と意識するようになります。

授業評価アンケートのデータに照らしてみても、難易度が高まるにつれて生徒の意識姿勢が苦手寄りにシフトしてくる傾向は確認できます。

しかしながら、データを精査してみると、難易度が同程度であっても、得意/苦手の意識の分布は一様ではなく、大きな負荷を掛けて(高度な内容を扱い、難しい課題を与えて)いながら、苦手意識の発生を十分に抑えることができている授業も少なくありません。


❏ 苦手意識が学びから積極性を奪い取る

ある科目を苦手と思うことそのものは、実のところ、さほど大きな問題ではありません。苦手意識が優位なクラスでも学力の向上や自分の進歩を強く実感させている授業も少なくないからです。

下図を見ても、得意と苦手が拮抗する{Ⅹ意識姿勢=±0}の左側でも学力向上や進歩の実感で換算得点が75ポイント(肯定的な回答が9割を占める水準)に達している授業が数多く見られます。

意識姿勢×学習効果(散布図).png
両者の相関は、ようやく 0.5 に達する水準であり、「極めて強固」と言えるものではありません。もし、苦手意識そのものが学力形成を阻害するのであれば、分布はもっと近似線に近いところに集中するはずです。

同じデータで作成した箱ひげ図(下図)で確認してみると、Ⅹ意識姿勢が-3前後とかなり強い苦手意識が見られるクラスでも、4分の1以上のケースで{Ⅶ学習効果≧75}を達成していることがわかります。

意識姿勢×学習効果(箱ひげ図).png
しかしながら、学校の授業に限りませんが、苦手と感じることに対して積極的に関わり続けるのは心理的にも容易なことではありません。苦手意識が学びから積極的な姿勢を奪った結果、学力の向上や自分の進歩が遠のくような事態は、できることなら作り出したくないものです。


❏ 同程度の負荷を掛けても、苦手意識は抑えられる

授業内容や課題の難易度と、生徒が抱く得意/苦手の意識の関連を詳しく調べてみると、以下のような結果が得られました。

難易度と意識姿勢の関係(箱ひげ図).png
どの学年にも共通することとして、難易度が+2以上に達するしっかりとした負荷を掛けても、意識姿勢をプラス(得意寄り)に維持している授業もたくさん(少なくとも4分の1以上)あります。

しっかりと負荷を掛けても苦手意識を持たせることなく授業を進められている実践は、どの学校にも例外なく存在しています。データを使ってその優れた実践を抽出し、共有を図りたいところです。


❏ 苦手意識を抑える{活動性、目的意識、学習方策}

意識姿勢を目的変数とする重回帰分析の結果を見ると、活動性[授業内活動]の寄与度が最大です。授業デザインにおいて教え合い・学び合いを十分に活用したり、課題解決に向けた協働/対話の充実を図ったりすることで苦手意識が膨らむのを抑えることができるということです。

 ■ 活動性が苦手意識を抑制する機能とその限界

また、高校3年では、+4以上の負荷を掛けて、かなり難しい内容と課題に挑ませている授業でも、箱の上端はプラスの値を維持しています。中間学年(中3~高1)ではⅧ難易度が+2を超えたところで箱の上端がマイナス領域に入り込んでいるのと対照的です。

最上級生になれば、選択科目として履修する授業も多く、そこでは必要な学習方策が未獲得の生徒は相対的に少ないでしょうし、当然ながら、進路希望の実現を目指して目的意識も高く持っているはずです。

高3生に限らず、「強い目的意識を持ち、学習方策も身についてきている生徒」を対象にした指導では、しっかりと負荷を掛けても苦手意識を膨らませる不安はあまり持つ必要はなさそうですし、逆に負荷を押さえすぎては生徒のポテンシャルを十分に引き出せなくなります。


❏ 学習内容の難しさと授業のわかりにくさは別物

なお、「学習内容の難しさ」と「先生の指示や説明のわかりにくさ」は別物です。うっかり混同することのないように注意しましょう。実際のデータに照らしても下図の通り、両者の相関は極めてあいまいです。

近似線を下方に大きく離れた授業では「授業内容はさほど難しくないのに、先生の説明がわかりにくい」という状況にあると想定され、学びを阻害している可能性が高いはずです。

難易度×わかりやすさ(散布図).png
難易度をはじめとする負荷をしっかりかけても、前述の通り、授業内活動を高く維持する(=教え合い・学び合いの活用、課題解決への協働の活性化など)といった対策で、苦手意識の発生を抑えることが可能ですが、指示や説明がわかりにくいのは「致命傷」になりかねません。

わからない→できないという「ドミノ倒し」が起きるのに加えて、必要な知識・理解を獲得させるフェイズでもたついているようでは、生徒が必要な能力や資質を得るために必要な学習活動に十分な時間を割くことができなくなるという大きな問題も引き起こします。

 ■ 説明がわかりにくいと言われたら
 ■ 確かな学力を獲得させるための「学習活動の適切な配列」


教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一